ブルームバーグ・ビジネスウィークは6月25日、トランプ前米大統領に単独インタビューした。トランプ氏は私邸があるフロリダ州パームビーチの会員制高級リゾート「マールアラーゴ」で、11月の大統領選でホワイトハウス返り咲きを果たした場合の政権構想を練っていた。

  世論調査ではトランプ氏と、再選を目指すバイデン大統領との接戦が示されていたが、トランプ氏の資金集めはうなぎ登りの状態にある。6月27日に行われた第1回の大統領選討論会では、バイデン大統領の職務遂行能力についての懸念があらためて浮き彫りとなった。

  そして、7月13日にはペンシルベニア州バトラーで集会に臨んでいたトランプ氏の暗殺未遂事件があった。

  トランプ氏が政権に復帰した場合、どのような事態になるか憂慮の声が上がっており、ゴールドマン・サックス・グループやモルガン・スタンレー、バークレイズなどのウォール街の金融機関は顧客に対し、トランプが返り咲いて保護主義的な貿易政策を講じる確率が高まっているとして、インフレ高進見通しを警告し始めている。

  アップルやエヌビディア、クアルコムなど米大手ハイテク企業は、中国との対立が深まれば自分たちの企業や、各社が依存する半導体にどう影響するか考えを巡らせている。

  欧州やアジアの民主主義各国・地域は、トランプ氏の孤立主義的衝動や西側同盟に対する同氏の不安定なコミットメント、中国の習近平国家主席およびロシアのプーチン大統領とのトランプ氏の関係について不安視している。

  そして、世論調査ではいずれも、バイデン氏よりもトランプ氏の経済運営に有権者が好意的であることが示されているものの、トランプ氏を次期大統領に選んだ場合、実際にどうなるかは多くの人々にとって不明だ。

  トランプ氏は自身の経済政策「トランプノミクス」の要点は「低金利と低課税」だとし、「事を成し遂げ、ビジネスを米国に回帰させる多大なインセンティブとなる」と話す。

  トランプ氏はエネルギー資源の採掘拡大や規制緩和を推進し、メキシコとの国境の警備を強化する方針だ。米国にとって有利な条件を引き出すため、敵対国・同盟国を問わず圧力をかける。暗号資産(仮想通貨)業界の成長を促す一方で、大手ハイテク企業を締め付ける。端的に言えば、米経済を再び偉大にする考えだ。

  トランプ氏は1時間半にわたりビジネスや世界経済など、ホワイトハウス復帰の場合の自身の政策課題に関する広範囲の話題についてインタビューに答えた。

  トランプ氏はその中で、パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の任期満了前に解任を目指さない考えを示した。パウエル議長の任期は2026年5月までで、トランプ氏は「彼に任期を全うしてもらうつもりだ」として、「彼が正しい政策運営を行っていると考えられる場合は特にそうだ」と語った。

  その一方でトランプ氏は、米金融当局が11月の大統領選前に利下げして、それが経済およびバイデン大統領への追い風となることを控えるべきだと警告。ウォール街では、選挙前の1回を含め、計2回の年内利下げを完全に織り込んでいるが、トランプ氏は金融当局について「彼らはそれをやるべきでないことを分かっている」とコメントした。

  また、法人税率を現行の21%から最低15%に引き下げたい考えを示した上で、その目標達成があまりにも困難だと分かれば、20%への引き下げでも受け入れる意向を表明。「単純明快」な数字であることが理由だとした。

  大統領在任中に禁止に追い込もうと試みた中国発の動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」を巡っては、もはや禁止する計画はないとした。

  また、昨年の時点で「非常に過大評価されたグローバリスト」と攻撃していた米銀JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)について、自身の考えを変えたことも明らかにした。

  トランプ氏は、政治キャリアも考慮していると受け止められているダイモン氏に関し、財務長官への起用を「考える」ことも想定されると語った。ダイモン氏の広報担当者はコメントを控えた。

  台湾を中国の脅威から防衛することなど、長期にわたる米外交政策方針にも疑問を呈する姿勢を表明。トランプ氏は台湾防衛の考えや、ウクライナ侵攻を巡ってロシアのプーチン大統領を罰する米国の取り組みにはクールだ。「私は制裁を好まない」と発言した。

  台湾防衛についてのトランプ氏の懐疑的な姿勢は、実際の防衛に当たっての難しさや、米国の保護に対し台湾が経費を負担してほしいとの願望などに根ざしている。同氏は「われわれはいかに愚かであるか。彼らは米国の半導体チップビジネスを全て奪った。彼らはとてつもなく裕福だ」と論じた。

  トランプ氏はこのほか、連邦の刑事裁判で有罪となった場合、自身の恩赦を「検討するつもりはない」と主張した。

   トランプノミクスの全体像はトランプ氏在任中のものと違いがないかもしれない。新たな要素はそれを実施するに当たってのスピードと効率性だ。適材適所の重要性を含め、権力のレバーに関する理解は深まったと、同氏は確信している。

  トランプ氏は経済についての自身のメッセージが11月の選挙で民主党を破る最善のルートだとみている。共和党全国大会初日の15日夜には「富」がテーマとなった。同氏は減税や石油増産、規制緩和、関税引き上げ、外国への金融コミットメント縮小といった型破りな政策方針によって、激戦州で勝利するための十分な有権者にアピールすると考えている。

  それはトランプ氏の支持者による21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件をはじめとする同氏在任中の負の部分を有権者が大目に見るというギャンブルでもある。

  既に複数の世論調査では、食品や住宅、ガソリンなどの歴史的な価格高騰を苦にした黒人やヒスパニック系の男性が共和党にシフトしつつある兆候が見られる。バイデン氏は極めて低い水準にある失業率や賃金上昇など、政権の経済的実績を主要な有権者に売り込むのに苦戦している。同氏の高齢に関してもパニックが広がっている。

  トランプ氏は大統領選を制する可能性があり、民主党指導部の間では、共和党がホワイトハウスに加え、上下両院の支配も勝ち取るのではないかと懸念を強めている。

  そうなった場合、トランプ氏は米経済や世界のビジネス環境、同盟国・地域との貿易関係を形作る上で前例のない影響力を手にすることになる。トランプ氏は在任中、一対一での取り組みを好む傾向を示した。トランプ氏とベストな関係にある企業の経営首脳や世界の指導者は有利となる一方、同氏の敵は不利な扱いを受けて同氏が何をするか恐怖を抱くことになった。

  ビジネスウィークがトランプ氏に行ったインタビューで一つ鮮明になった点があるとすれば、同氏はこうしたパワーを十分に認識し、それを活用しようと心に決めていることだ。