チューリップテレビは8月25日の定例会見以降、新田知事に「なぜ旧統一教会と関係を絶つと言えないのですか」と質問して来ました。それは単に言葉の使い方として、「関係を絶つ」と言わないのかを質していたのではありません。私たちは知事の現状の問題認識を問うていたのです。
7月20日(水)定例会見
新田知事に対して、旧統一教会についての質問が始まったのは、7月20日の定例会見でした。ここで知事は他社の記者たちの質問に対して、「私自身も一昨年の知事選で応援を受けたことは事実です」と、おととしの知事選で旧統一教会から選挙応援を受けたことを認めました。そして、集会に招かれ話をしただけだとして「当時の私の立場にとってはありがたいことではありました」と述べたのです。
さらに、記者から問題を指摘されている団体の協力を得たことについて、現時点でどう考えているのかについて繰り返し質問されると、「事実関係をはっきりと確認をできていない」ことを理由に、「コメントを控えさせていただきたい」としました。
また、この会見で知事選後の関係について問われると、知事は「特に選挙が終わってからはこれと言ったかかわりはございません」と述べました。しかし、チューリップテレビの取材で、知事選の翌年の2021年7月18日に、旧統一教会の関連団体・UPFが主催する「ピースロードin富山」の開会式に知事が出席していたことが明らかになりました。
7月26日(火)定例会見
7月26日の定例会見では、チューリップテレビの毛田千代丸キャスターが、知事選の翌年に旧統一教会関連団体のイベント、ピースロードに参加していたことを質問すると、知事は「実行委員会なので必ずしもいまおっしゃるような関係とは理解をしてはいませんでした」と述べ、選挙応援の見返りではないかという点についても否定しました。
焦点の選挙応援については、「集会をやりますよと。そこで話す機会をあげますよと。そこに行って私の公約のことやら、あるいは富山県にかける思いやら、それ話させていただいたということです」と前回と同じ説明を繰り返しました。
そして、旧統一教会関係者が名簿作りや電話作戦に関わったとの証言があると、記者に聞かれると「後援会の事務局長に調査をするように指示をしています」と回答しました。
また、旧統一教会関連団体との今後の付き合いについて問われると、「ここでもう一度立ち止まってしっかりと考えてみたいという風に思っているところでございます」と述べました。
さらに、県政や新田知事自身の政策に、統一教会的な考え方が反映されるということはあるのか記者から問われると、知事は「私が接した方から聞いたのはやっぱり家族を大切にしようということはよく言われましたですね。それはだれも反対することはないという風に思いますので、私も賛同しているところでございます」と述べました。
8月9日(火)定例会見
そして8月9日の定例会見で、知事は旧統一教会側から受けた選挙応援について調査結果を発表しました。
▼2020年3月から4月ごろ世界平和連合富山県本部の鴨野守事務局長より、当時の後援会である「新田はちろうを囲む会」の事務局に連絡があり、新田氏の演説の映像を貸したのが最初の接点だった
▼同年6月の自民党県連が石井前知事に推薦を出すことが決まった頃、鴨野氏より新田氏を応援したいとの申し出があった。
▼同年8月1日土曜日に徳野英治会長、8月12日水曜日に平和連合の名古屋支部長と当時の後援会事務所で面談した
具体的な支援内容は3つ
▼第1は後援会入会申込者の紹介
▼第2は電話作戦
※告示後の2020年10月8日木曜日から24日土曜日の選挙期間中
▼第3は演説の機会の提供
※2020年の8月23日に滑川市、9月13日と9月21日に富山市においての合計3回
20名ないし50名程度の前で新田氏の描く富山県のビジョンや政策について話した
この会見で知事は、「当時、私は過去に統一教会が、コンプライアンス上の問題があったことは承知をしておりました」と述べましたが、世界平和統一家庭連合が旧統一教会であることや、選挙応援に関わった世界平和連合が関連団体であることを把握していなかったとして「今としては反省をしているところでございます」「支援を受けたことは適切ではなかった」と述べました。
そして「今後はコンプライアンス上の課題がある団体とはお付き合いをしないことを約束いたします」と述べました。あえて「旧統一教会とはお付き合いをしない」と言わなかった理由は何でしょうか?
同じ会見の中で知事は、今後、旧統一教会やその関連団体から行事出席や後援承認の依頼があった場合について触れ、「旧統一教会が元信者などから訴訟が提起され損害賠償請求が認められた事例が複数あることは認識をしております」としながらも、これについては「今後の国会での議論などにも十分注視しながら慎重に判断し適切に対処してまいりたい」と述べました。この言い方では旧統一教会について現在、問題があると認識しているのかどうかはっきりしません。私たちは次回の定例会見でこれらの疑問を聞くことにしました。
8月25日(木)定例会見
8月25日の定例会見では、まず毛田キャスターが「旧統一教会との関係を絶つ」とは言わなかった理由を聞きました。それに対して知事は、「コンプライアンス上の問題があれば、当然、関係は見直すことになります」と述べました。「問題があれば」という表現は、前回から後退してしまったかのような印象を受けかねません。さらに知事は、法務省が行う旧統一教会の被害者救済を目的とした関係省庁間の連絡会議や消費者庁の霊感商法対策についての取り組みについて触れたうえで、「今後、事の良し悪しはそちらの方で、ぜひ判断をいただきたいと思う」と発言。さらに「商法の部分。そういう意味ではコンプライアンスの問題がなくなれば、しっかりと改善されれば、国も法務大臣が出られて関係省庁総がかりで、今、明らかにしようと消費者庁としても取り組もうと言っておられるんですから、その結果を見る」と述べたのです。知事の現状の問題認識がどうなのか、ますますわからなくなってきました。
また、毛田キャスターが「岸田総理は自民党に対しては今後旧統一教会と関係を持つことは避けるべきだ」と話していることを質問すると、知事はチューリップテレビの補助金不正問題を例に上げて、旧統一教会の問題と「コンプライアンスの問題という意味では、私はまったく一緒だと思いますよ」という認識を示しました。
そして、さらに「関係を絶つ」と明言しないことについて質問すると、今度はチューリップテレビの報道について「本当に印象操作をされるような映像を垂れ流したりですね。」
「どうか県民のみなさんご理解いただきたいと思いますし、偏った報道に決して惑わされることなくご安心をいただきたいという風に思います」「恣意的に切り取ってそれを放映するということなどは私にとってはとても偏った報道の仕方だという風に思わざるを得ません」と発言しました。私たちは抗議するとともに、チューリップテレビの報道のどの点が印象操作、偏った報道にあたるか問い合わせていますが、現在までのところ「水掛け論になる」として回答はありません。
その後、8月31日には県議会を前に、富山県議会の立憲民主党・県民の会の菅沢裕明会長らが、知事に対して旧統一教会に対して絶縁宣言をするよう要望しました。その際のやりとりについて菅沢氏によると、知事は旧統一教会について「国の調査では反社会的とまでは言い切れない」「現在、政府の公式見解も出されていないように思う。したがって旧統一教会ないしはその関連団体の付き合いについては、そういった見解を待つ」という内容を話したそうです。菅沢氏は「知事のそういう『国の見解を待つ』などというその姿勢は、認識不足も甚だしいと私は思いますね」と話しました。
9月2日(金)定例会見
9月2日の定例会見では、この2日前に岸田総理が、旧統一教会と自民党議員の関係断絶を党の基本方針に決めたことについて、知事に改めて聞きました。自民党員である知事は「私も党費を払っている党員ですので、ひとりの政治家としてはそういうようなことを受け止めたいと思っています」と回答。考えに変わりがないかについて「コンプライアンス上の問題のある団体とは付き合いませんということは明言してきたところです」と従来の発言を繰り返しました。
さらに、毛田キャスターが、国の厳しい対応と、知事の対応について比較して聞いたところ、知事は憲法の政教分離の原則の点から「関係を断ち切るとまで言えとおっしゃるということは、私はその宗教団体への圧迫にあたるという風に思っていますし、ということはそれを信じておられる方々をやっぱり断ち切るということにつながるんじゃないかと理解をして、私はこの立場でそういう発言はできませんと言っていることです」と述べ、政教分離の原則の点から知事としては関係を絶つとは言えないと繰り返しました。
一連の知事の発言に対して、9月6日、旧統一教会の問題に取り組む全国霊感商法被害弁護士連絡会が動きました。「政教分離と旧統一教会の関係は全く別の問題だ」と批判。多くの判決で違法行為が認められていて、旧統一教会が反社会的団体であることは明確だとして、知事に見解をただす質問状を送ったのです。同連絡会の代表世話人である山口広弁護士は、「県知事は煮え切らない態度だ」として、会見の席で「旧統一教会との関係を切って、県民に態度を明らかにする必要がある」と迫りました。
9月12日の県議会で知事は「旧統一教会はこれまでも元信者などから訴訟が提起をされ、損害賠償請求が認められた事例が複数あり、コンプライアンス上の問題がある団体だと認識をしております」と一歩踏み込んだ表現で発言。「政治家として今後、コンプライアンス上の問題がある団体とその関連団体とは関係を持たないことを明確に申し上げます」と述べましたが、「今後、旧統一教会とは関係を持たない」との発言はありませんでした。
自民党が9月8日時点で発表した調査では、旧統一教会から選挙の組織的支援や動員の受け入れがあったのは、国会議員は2人しかいません。ましてや、知事のように選挙前に旧統一教会の会長と面談までしているのは、他に例を見ません。おととし自民党が分裂した熾烈な知事選で、旧統一教会の応援を受けた新田知事だからこそ、一切の疑念を持たれないように、旧統一教会との今後の関係に余地を残すような姿勢ではなく、率先して明確な態度を示すべきではないでしょうか。