演出担当 小早川偉月 くん
「これから『ねがいましては』の上演を始めます。昭和19年、市商が造船工業学校へと改編された場面です。準備はいいですか? いきます。1、キュー!」

語り部
「昭和19年3月20日。それは突然のことでした」

佐藤正一役
「先生。ぼくらは商業が学びたくて、商業に入学しました。それが、何もしてないのになんで学校が変わるんですか。もう商業は勉強できんのですか。何で勉強したら、いけんのですか」

教師役
「今、日本は非常時なんじゃ。この戦争に勝つための瀬戸際なんじゃ。そんなお国の一大事に、国策の役に立たん商業をやっとる場合じゃない。今から船を作る。飛行機を作る。武器を作る。そうやって、お国のために尽くすのが、われわれの役目なんじゃ」

佐藤正一役
「商業が役に立たんゆうて何ですか。商業はお国の役に立つ、大切な学問じゃないんですか。先生がそう教えてくれたんじゃないんですか。先生だって商業科でしょう。なんで自分の科目のことをそんとに言うんですか!」

将校役
「黙らんか、この非国民が! きさまは大日本帝国を勝たせんつもりか。国民全員が一丸となって、この難局を乗り切ろうと必死になっとるときに、きさまは何をたわけたことを言うとるんか! 今、やらんといかんのは、簿記だの、そろばんだの経済だの、役に立たんままごと遊びではない。戦う武器を作ることじゃ。きさま、その歳になって、そんなこともわからんのか。このくそったれが!」

教師役
「山田大佐。お願いです。もうそのへんにしとってやってください。こんなやつでも貴重な戦力ですから」

将校役
「お前らの教育が悪いけえ、こんとなやつが出てくるんじゃ。商業なぞ、クソの役にも立たん証拠じゃ」

戦争に翻弄された学生たち―。台本は、事実に基づいて顧問の 黒瀬貴之 先生が仕上げました。

語り部
「昭和22年3月1日。市立造船工業学校廃止。広島市立第一商業学校として、市商は復活しました」

教師役
「佐藤正一。右のものは、本校の課程を終了したので、これを称す。おめでとう。

佐藤正一役
「ありがとうございます」

教師役
「今までいろいろあったが、ようがんばったの」

佐藤正一役
「先生、これ、ぼくの卒業証書ですか?」

教師役
「当たり前じゃないか。なに、バカなことを言っとるんや。これからの新しい日本は、おまえらにかかっとる。がんばるんど」

佐藤正一役
「いや、でも…。違う。これは、ぼくの卒業証書じゃない」

教師役
「どういうことや」

佐藤正一役
「これには、『広島市立造船工業学校』と書いてあります」

生徒役たち
「え?」

佐藤正一役
「ぼくは、市立商業学校に入学して、市立商業学校を卒業したんです。なのに、なんで造船工業なんですか」

教師役
「しかたないんじゃ」

佐藤正一役
「しかたないって、どういうことですか。なんで」

教師役
「佐藤、残念ながら卒業できんかった生徒もようけおるんじゃ。お前の仲間にもおるじゃろう。このご時世で卒業できただけでもありがたいと思わんといけんぞ」