伝わってくるのはあの時の情景とあれからの心境
切明千枝子さんは、県立広島第二高等女学校の4年生だった15歳で被爆しました。短歌には友だちを詠んだものが多くあります。

切明千枝子さん
「先生に言われるままに火を付けて焼いて、で、それが焼け落ちるまでぼーっと立って見てる。でも、焼け落ちて遺骨が残る。それが淡いピンクでね、それこそ桜色だったんですね。で、それを見た時に初めてね、金縛りが溶けて、涙が出ましたね」

切明千枝子さん
「あっちでもこっちでも焼いては埋め、焼いては埋め、そこへまた道路がつき、家が立ち、今の広島市があるんですからね」

佐藤さんが、被爆79年となる原爆の日に出版しようと決めたのは、今年4月。出版の経験どころか、短歌に触れたのも初めてでしたが、切明さんが語り部になる以前の感情や、語り部としては言い尽くせない思いを短歌から受け取り、歌集として残したいと思ったそうです。
佐藤優さん
「切明さんの普段語られないこと、その裏までもがなんか見えるような気がしていて。この限られた文字数、本当に短歌を知らない私にもなんか届いてくるような力があるなっていうのを、最初を読んだ時に思ったので」

黙っていては、あの日のことが繰り返されてしまうかもしれない、という恐怖心から、80歳を過ぎて語り部を始めたという切明さん。短歌を詠むのはそれとは全く異なる心の動きからでした。
切明千枝子さん
「自分の心の中にある悲しみとか嘆きとか、鬱屈とか後悔とかね、そういうものがもう心の中に渦巻いて、もう自分自身で処理ができない。なんで生き残ったんだろうっていう後ろめたさもありましたしね。なんとか短歌にそのことを吐き出すことで、私は生き延びることができたんかなと思う」

切明さんは、自分の心を吐き出した歌が多くの人に読まれることを最初は「すごく恥ずかしい」と思われていたそうなんですが、この歌集が世の中が平和になるのに少しでも役立つならばと、出版を決意されたそうです。
歌集「ひろしまを想う」は、広島市内の一部書店(紀伊國屋書店・ジュンク堂書店・フタバ図書)やAmazonでも販売されています。