「柔の拳」で「剛の拳」に勝てるのか

大ヒット漫画、北斗の拳で宿命の戦いを繰り広げた兄弟ラオウとトキ。
すさまじい力を誇る「剛の拳」を操るラオウがパワーを持ち味とする村上に、力ではなく受けに回って真価を発揮する「柔の拳」の使い手トキが、完璧なフォームで世界に挑む知念に重なるというのです。

比嘉敏彦コーチ
「ラオウ(村上選手)は力で全てウエイトリフティングをやるんですけど、(知念)光亮選手も力はすごく持っているんですけど、力は向こうが戦闘能力は高いので、それを補うためには同じようなことをやっても勝てませんので、どうにか違う拳で勝ってほしいなと」

クリーン&ジャークで日本記録(235キロ)を持ち日本人離れしたパワーがまさに「剛の拳」と言える村上。

知念光亮選手
「脚力もあっちが、バックスクワットは310キロ、自分のベストは。あっちは375キロとか、380キロ近くまでやるので、全然足の力とか別物で、だけどウエイトリフティングは力なんですけど、力じゃないかなって部分で。本当に体の軸に近ければ近いほど軽くなる。物を持つ時に遠くに離すと重いじゃないですか。近くに持ったら軽いじゃないですか。ただの物理、いかに近くでやって力を使わずに上に挙げるかが勝負だと思います」

ウエイトリフティングは力ではなく「物理」だと語る知念。力で劣る知念が、スナッチでは村上を超える日本記録(193キロ)を樹立する理由が、その完璧なフォーム。知念の「柔の拳」です。

比嘉敏彦コーチ  
「力ではなくてフォーム、技を使ったバーベルに早く潜れるフォーム作りをしっかりやるのも、ウエイトリフティングの魅力だと思います」

「体の軸に近くなるほど、バーベルは軽くなる」。この日の練習ではその理想を徹底的に追求します。

求めるのは、自身の体重も利用して体の軸に極力近い位置でバーベルを移動させ、潜り込むようにバーベルを挙げること。

比嘉敏彦コーチ 
「体が後ろに行っているから自分の体重を使えていますよね、筋力だけでなく自分の体重をしっかり使いながらできている、テクニックです」

体に触れるほどの、すれすれの位置でバーベルを移動させる。その理想に近づいている証拠が、足のスネにある傷です。

スネに着目して撮影すると、バーベルがスネに当たりながら上昇していくのがわかります。

知念光亮選手
「比嘉先生が教えている子たちはみんなスネが削れているので(笑)。その方が力が無くてもあがってくるんですよ。力に頼っていたら限界があるんで、それよりは体のしなりを使ってやるっていう」

去年春に肩をけがした影響もあり、現在世界ランキングで村上に劣る知念。ここ数年の知念のフォームを比嘉コーチはこう見ていました。

比嘉敏彦コーチ 
「力が強くなったおかげで力に知らないうちに頼っている、今まで持っていた柔の拳が剛の拳に偏りそうになっていたので、そこを今微調整している感じです」

オリンピックをかけた勝負の時にむけて、比嘉コーチと共に最終調整に入る知念。漫画「北斗の拳」では、最後は「剛の拳」に走り、ラオウ敗れたトキですが、知念は最後まで「柔の拳」を貫くつもりです。

知念光亮選手
「記録が止まらないというのもライバルがいるからだと思います。世界ランキング10位以内に入ればオリンピック出場の枠が取れるということで、まずはベストを出す。今までで一番重要な試合じゃないですかね、2月、4月が」

アジア選手権、最重量級の戦いは今月10日。10年以上続くライバル対決を制すため、知念がその戦いに挑みます。