魂魄の塔

魂魄の塔は、激しい地上戦で命を落とし、戦後も野ざらしになっていた約3万5000柱の遺骨を集めた慰霊碑です。終戦の翌年、1946年に行われた遺骨収集には、翁長さんも参加していました。

吉川さんはこの年、校内の平和学習集会で、15歳の翁長さんが戦争に動員された話を聞きました。

▼吉川麻衣子さん
「先生が涙を流しながら語っておられるという、涙を流しながらしか語れない体験の重さというのを、小学生ながらに感じたことは覚えています」

翁長さんの証言を聞いたことをきっかけに、沖縄戦の研究者を目指した吉川さん。大学で心理学を専攻し、卒業論文のテーマに選んだのは、「沖縄戦」。戦争体験者の心の傷を癒すためにできることを考えたといいます。

吉川麻衣子 沖縄大学教授

「あの戦争を体験した方々が今どのような思いで暮らしているのか、ということが気になったんですね。その方々がもし戦争の体験で苦しい思いを今されているのであれば、何か今できることがないかなと」

吉川さんは2005年、沖縄戦の体験者同士が、戦争体験やその後の生活を語り合う「沖縄戦体験を語らう場」を立ち上げました。グループごとに分かれた73人が、戦争体験で関わりのある場所を巡ったり公民館に集い、過去の痛みを共有しました。

参加者が安心して話せるように、すべての取材を断って開いた「語らう場」。10年で837回開かれ、その音声記録は2924時間にも及びました。

「60年、70年たってからようやく語り始める方々が多くいらした。そこまで時間をかけないと言葉にならないくらい、重いというか。言葉にはできない、したくないような壮絶な思いだったんだろうなと」