僕の手土産のカステラを
共著『満月の夜、母を施設に置いて』(中央法規、2008年)。巻末には、谷川さんの自宅で行われた対談がおさめられている。自宅を訪問した時の思い出を、藤川さんは生き生きと話す。

藤川さん:
「谷川さんのお宅にお邪魔しての対談でした。訪問前には、服装はこれでよいだろうか…とあれこれ考えて。お宅にお邪魔してからも緊張でガッチガチでした」

「谷川さんのお父様(※哲学者の谷川徹三さん)とお母様の写真、それから大きな満月の写真が部屋に飾ってあったのは覚えています。谷川さんが『藤川さん、もう少し気楽にやりましょうよ』と言って、お茶を出してくださったり、僕が手土産に持って行ったカステラまで出してくださったり(笑)『満月の夜、母を施設に置いて』は、谷川さんのお陰でよく売れました(笑)」

繋がった「縁」。2人の詩人の出会い。共著出版以来、谷川さんは藤川さんの詩集の帯にも、言葉をおくってくれるようになった。
『まなざしかいご 認知症の母と言葉をこえて向かいあうとき』(中央法規、2010年)
ー愛と苦しみから 生まれた 言葉なき「まなざし」こそ、 詩の源。 そこには 深い知恵が ひそんでいる。ー

『支える側が支えられ 生かされていく』(致知出版、2020年)
ー「混沌を生きる母のいのち 愛を貫いた父のいのち 詩で立ち向かう息子のいのち それぞれのいのちが愛おしい」ー

谷川さんが書いた藤川幸之助
藤川さんが、谷川さんの『僕はこうやって詩を書いてきた 谷川俊太郎、詩と人生を語る』(ナナロク社、2010年)を読んでいた時のことだ。
藤川さん:
「『藤川幸之助さんという方なんですけど…』と僕のことが書いてあったんです!『現実に基礎をおいた詩は強いなと感じました』というような内容で…。もうびっくりしました」
「その頃の僕は『人をびっくりさせるようなものを書きたい』、『芸術的なものを書きたい』ともがいていました。でもそれを読んで決まりました。『このまま自分の生きる姿を書いていこう』。それはつまり『谷川さんの一部分を引き継ぐことだ』と」
