「食べずに死ぬか、食べて死ぬか」被災者の声を缶詰に

黒潮町入野海岸の北にある「黒潮町缶詰製作所」。34の数字が記されたフラッグは工場のシンボルマークだ。
黒潮町缶詰製作所は2014年、町の防災関連産業の核として設立。友永公生さんはその設立メンバーの1人として、立ち上げ当初から工場の運営に携わってきた。
この工場では、非常食でもある缶詰を、日常的に食べてもらえるようこだわり抜いて仕上げている。

「カツオと筍のアヒージョ」「土佐はちきん地鶏ゆず塩仕立て」など、レストランのメニューのようなおしゃれなネーミングに見た目のおいしさ、本格的な味の追求。
そして何といっても最大の特徴は、アレルギーを持つ人でも食べられるということ。友永さんによると、小麦や卵など8大アレルゲンといわれる特定原材料を一切使用していない缶詰は全国でもここだけ。この取り組みには、被災者の声が活かされている。

■友永公生さん
「東日本大震災では、お子さんにアレルギーがあって『食べずに死ぬか、食べて死ぬか』というところまで追い込まれた、といったケースもあったようです。『誰ひとり取りこぼさない』というのが犠牲者ゼロを目指す黒潮町の理念なので、誰もが安心して食べられる缶詰でないといけないんです」
2024年6月には、缶詰界では難しいとされる「米」を使った海鮮たっぷりのパエリアが誕生。友永さんがレシピを考案し、夜な夜な自宅や工場で試作を重ね、5年がかりで開発した自信作だ。
被災地で行ったヒアリングでも、「同じものばかりでは食べ飽きるし栄養が偏る」「味に変化があれば」といった食へのニーズが多くあり、そうした声も反映させている。

現在のラインナップは23種類。これらの缶詰は、熊本地震などの被災地に支援物資として届けられた。
役場時代を含め、これまで「津波に負けない町づくり」に奔走してきた友永さん。防災の原点は東日本大震災だった。