一転「戻った記憶」
被害者の母親が非難した、裁判での「嘘」。それは、差し戻し裁判で変遷した、犯行の動機に関する西原被告の供述への指摘だった。5年前に行われた最初の裁判で「犯行当時の記憶が無い」と証言していた西原被告は、差し戻し裁判で一転「記憶が戻った」とした上で「被害女性との仕事上のトラブルに腹を立てたことが犯行に及んだ理由」と述べ、性的な目的については否定していた。
「娘との間に生まれた仕事上のイライラが原因だったと証言している。トラブルがあったとすることで、わいせつ目的だったことを隠している」
「西原被告を殺して刑務所に入っても構わない。包丁で刺して殺してやる。娘を返せ」
「命の償いは命で、死刑にして欲しい」
やり切れない思いが込められた被害者の母親の意見陳述を、西原被告は、身じろぎすることなく、視線を足元に落として聞き入っていた。
「明るく、自慢の妻だった」
続いて、被害者の女性の夫が意見を述べた。
「西原被告はこれまでに、複数の女性に対して脅迫文を送ったり、首を絞めるなどの暴行を行っていた。段々とエスカレートして、今回の犯行に繋がった」
「正しい量刑を望んでいるが、事件に向き合うことが辛い」
夫もまた、控訴審に出席しなかった西原被告の態度に触れた。
「絶対に更生しないと思った」
「突然に記憶がよみがえったなどと話した。殺意がわく。今すぐにでも殺してやりたい」
静かな口調で、しかし収めようのない怒りの感情を表した。
「西原被告が示した障害年金で被害弁償について、ふざけるなと思った。人の命を何だと思っているのか。罪を認めて欲しい」
「たった懲役19年というのは受け入れられない。わいせつ目的が無かったというのは信じられない」
その上で、夫もまた、被害者の母親と同様に極刑を望む意見を述べた。
「死刑以外にはあり得ないと思う」
続いて、被害者のきょうだいも意見を述べた。
「軽度の知的障害を理由にしている」
「障害があるから、その特徴を逆手にとって悪用している。障害があっても社会生活をしている人は大勢いる。障害があれば何をやっても許されるのか」
収めようのない心痛が、痛烈な非難の言葉となって法廷内に響いた。