元日本兵の遺族たちの証言

黒井さんは現在の会の前身となる「PTSDの復員日本兵と暮らした家族が語り合う会」を2018年に設立。2020年には、東京・武蔵村山市の自宅敷地内に10平米ほどの「PTSDの日本兵と家族の交流館」を開きました。はじめはリアクションがほとんどなかったと言いますが、「会」や「交流館」の存在を知った元日本兵の家族や遺族から徐々に様々な証言が届くようになったと言います。そして、どんな形でPTSDを発症した方が多いのかも分かってきました。

『PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会』代表・黒井秋夫さん
「一番多いのは、家族に対する暴力です。兵士たちは自分の妻を殴ったり蹴ったりしました。その次は子どもです。他は隣近所です。それから、そうした話と重なるんですけど、アルコール中毒になって酒を飲むと、暴力振るうってケースが沢山ありました」

それに加えて、黒井さんの父のように無気力になってしまう方や、自殺や犯罪に至る者などもいると言われます。

実は日本では戦時中、精神疾患の兵士の治療のため、千葉県市川市の「国府台陸軍病院」を整備しました。こちらには終戦までに1万人以上が収容されたと言いますが、心を病んだ兵士など皇軍には存在しないとされた上、終戦と同時にカルテ焼却が命じられたりして、長い間、その実態が詳らかにされませんでした。関係者によって残されたカルテなどが近年、研究されるようになり、PTSDに類する患者は戦時中で少なくとも数十万人に上る可能性があることがわかってきたと言います。

DV=ドメスティック・バイオレンスは連鎖するとも言われますが、元日本兵の親に受けた暴力によって、更に自分の子ども達に対する二次加害を起こしてしまう例もあると言われます。黒井さんの活動や研究者の努力などがあって、こうした実態が徐々に浮き彫りとなってきたわけです。そして、ようやく行政の側からも新たな一歩が踏み出されようとしています。

『PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会』代表・黒井秋夫さん
「昨年(2023年)の3月15日、衆議院の厚生労働委員会で日本共産党の議員が、日本兵にPTSDの問題があって家族も苦しんでいるので、きちんと調査して、何らかの対策が必要じゃないかと質問をなさっているんですね。それに対して当時の加藤厚生労働大臣は、調査して対応するってことを約束されました」

日本兵のPTSD問題に関して、国が調査する方針が明らかになったのです。「PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会」は現在、月に1回ペースで東京と大阪で集会を行っており、黒井さんはそれ以外にも講演活動などを行っています。

TBSラジオ「人権TODAY」担当・松崎まこと(放送作家/映画活動家)