過去の事件の“鑑定書”…「責任能力ある」

私たちは、当時、検察が起訴の根拠のひとつとした精神鑑定書を関係者から独自に入手した。そこには、まず社会との関わりを断とうとする青葉被告の言葉が記されている。

青葉被告
「この世の中、頑張っても仕方がない、仕事も続かない、世間に疲れた、人間関係が面倒、自分の居場所は隔離された刑務所にある」

この中で鑑定医が「責任能力がある」と判断したやり取りがこれだ。

鑑定医「どのように捕まったの?」
青葉被告「自首しました」
鑑定医「何時間後に?」
青葉被告「10時間後」
鑑定医「なんですぐに自首しないの?」
青葉被告「『遊ぶ金が欲しかった』と供述するために、インターネットカフェで遊んだという事実を作るため」

計画的な犯行だったことが窺える。鑑定医は…

鑑定医
「同能力(責任能力)を十分保持している、と考えられる」

懲役3年6か月の実刑判決を受け、望み通り刑務所に収容された青葉被告。そこでも新たな“妄想”と出会った。

膨らむ妄想…凶行の経緯は

青葉被告
「“闇の人物ナンバー2”。ハリウッドやシリコンバレー、官僚レベルにも人脈がある。闇の世界に生きるフィクサーみたいな人」

青葉被告は“闇の人物ナンバー2”という架空の存在から監視されていると思い込むようになる。刑務所内では問題行動も目立った。

2016年に出所した後、小説を完成させ、京アニ主催のコンクールに応募した。ところが、結果は落選。闇の人物が京アニに落選を指示し、小説のアイデアが盗まれたとも主張した。落選のあとの投稿をみると…

「裏切り者やパクった連中は絶対に許さない」

2019年6月、青葉被告は埼玉県の大宮駅に向かう。包丁6本を隠し持って無差別殺人を計画したが、人通りが少なく断念した。しかし、殺意は消えなかった。

青葉被告
「『本当に殺したいのは誰か?』考えた。失敗しても構わないから、やれるだけのことをしようと」

そして、その1か月後の2019年7月、京都へと降り立った。訪れたのは事件の3日前だった。計画を練り上げるためだったという。

京都アニメーションを下見し、犯行道具を購入。道を尋ねたり、店員に話しかけたりするのは最小限に抑えた。「証拠を残したくない」という理由だった。ガソリンを購入するときは「発電機に使うため」と嘘をついたという。

ところが犯行直前、スタジオの前に着いた青葉被告はその場に座り込む。葛藤が突然こみ上げてきたからだと話した。

青葉被告
「ためらった。自分みたいな悪党でも小さな良心があった。ただこの10年間、働いて、やめさせられて、刑務所に入れられ、小説を送ったら叩き落されて、パクリもあった。光の階段を上る京アニに比べ、自分の半生はあまりにも暗い。やはり、ここまできたらやろうと」

逡巡した13分間。引き返す時間は十分あったはずだったが、計画は実行された。こうしたことから検察は「たしかに妄想はあったものの、犯行を思いとどまる力や善悪を区別する力を凌駕するものでは到底ない」と切り捨てた。