36人が死亡した京都アニメーション放火殺人事件。2023年9月から始まった裁判で明らかになった青葉真司被告の“妄想”とは。1月25日の判決を前に、青葉被告の闇を独自取材しました。
青葉被告の“妄想”が裁判の争点に

青葉真司被告
「事件当時はそうするしかなかったと思っていて、たくさんの人が亡くなるとは思っていなかった」
2023年9月の初公判でこう語った青葉真司被告(45)。その動機は不可解で身勝手ともとれるものだった。

青葉被告
「自分が書いた小説を京都アニメーションにパクられた。『闇の人物ナンバー2』が京アニに盗作を指示した」
青葉被告が抱き続けた“妄想”。裁判で争われたのは犯行が“妄想”に支配されていたかどうか、つまり、刑事責任能力の有無や程度だった。
検察側
「妄想に支配された犯行ではなく、筋違いの恨みによる復讐だ。完全責任能力がある」
弁護側
「青葉被告に嫌がらせをし続けた“闇の人物”と京アニへの反撃だった。心神喪失で無罪だ」
法廷で青葉被告は何を語ったのか。22回、100時間以上にも及んだ長期審理を傍聴記録や現地取材でひも解く。
事件からおよそ1か月後、2019年8月に病院で撮影された動画。

主治医
「5回手術している。あと少なくとも4回は手術をします」
ベッドで横になっているのは青葉被告だ。自らも全身の9割以上にやけどを負いながら、度重なる手術により生きながらえた。あの日、現場で何が起きていたのか。
写真が伝える“現場の惨状”

2019年7月18日、事件は起きた。現場となったアニメスタジオの窓から激しい炎や煙が吹き出す。社員36人が死亡し、32人が重軽傷を負った。

火は吹き抜け構造のらせん階段を通じて燃え広がり、内部は想像を絶する状況だった。まず、1階で2人。2階では11人の遺体が見つかった。3階と屋上とをつなぐ階段の周辺には、折り重なるような形で20人が亡くなっていた。
今回、私たちは事件直後のスタジオ内部の写真を独自に入手した。当時の詳細な状況が見えてきた。

火が放たれた1階の部屋。天井が抜け落ち、鉄骨がむき出しになっている。

20人が遺体で見つかった3階と屋上とをつなぐ階段。当時、扉は閉まったままだった。開けるに至らなかったとみられる。

一方、3階の部屋は棚や本がきれいに陳列されたままになっている。ただ、天井を見ると、エアコンなどプラスチックの部分は溶けて垂れ下がっている。消防によると、出火して60秒後には300度までに達するガスが充満したという。
当時の凄惨な状況をよく知る医師が、今回、私たちの取材に応じた。26人の遺体を解剖した京都府立医科大学の池谷博教授だ。 複数の遺体から“打撲痕”が確認されたことに強い衝撃を受けたという。
京都府立医科大学 池谷博教授
「火をつけられたときの相当な混乱状況、みなさんが出口に殺到していく状況。前の倒れた人の上にも乗っかって逃げようとした。本当に切迫した状況、混乱状況を目の当たりにした」
逃げ惑い、人が人を押しのけあう状況。「(家族は)苦しまずに死んだのか?」、警察を通じて遺族から尋ねられることもあったが、悩んだ末、こう答えたという。

池谷教授
「『苦しまなかったとは言えない』と正直に申し上げました。『苦しまないで眠るように亡くなりました』と言うほうが良いに決まっている。でも、それって偽善ですよね。仕事の夢も生活の夢も全部、強制的に奪われたわけですからね。『苦しくなかった』なんて言えませんよね」