遺族の思いと青葉被告の半生

事件で最愛の妻を失った夫と息子。

寺脇(池田)晶子さん、44歳で亡くなった。妻の晶子さんは「響け!ユーフォニアム」などでキャラクターデザインを担当。有名作品を数多く手がける一方で、母親として子育てと仕事を両立していた。

寺脇(池田)晶子さんの夫
「晶子かわいそうだなって、もっと絵を描きたかっただろうし」

残された息子が少しでも前を向いて生きてくれるよう父親は寄り添い続けた。

寺脇(池田)晶子さんの夫
「2年をこえたくらいから少しずつ子どもも前を向いてくれるようになった。『人を恨む』ことを覚えてほしくなかったんです。『お前(青葉被告)のせいでママが死んだ』と思うようになると、今度はお前が青葉被告と同じことをやりかねないと。だから気持ちはわかるんだけど前向きに物事を考えようと」

青葉被告はどのような“妄想”を抱き、なぜ事件を起こしたのか。彼の半生を辿ると、その背景がみえてきた。

埼玉県さいたま市、青葉被告は45年前、この町で生まれた。9歳のころ両親が離婚。父親に引き取られアパートで暮らしていた。しかし、日常的に虐待を受けていたという。

穏やかな表情でほほ笑むのは小学6年のころの青葉被告である。体格がよい、活発な子どもだったという。

地元の高校の定時制に進学すると、埼玉県庁の非常勤職員として勤務した。郵便物を仕分けする「文書課」に所属していたという。取材を進めると、青葉被告の上司だった女性にたどり着いた。

青葉被告の元上司
「(同僚からは)『青葉くん』と呼ばれていて、細くてすごく美男子だったんですよ。真面目に仕事はしていましたよね、仕事は言われたことは全部ちゃんとやるし、(仕事ぶりは)“普通よりもちょっと上”という感じ」

しかし、20代、人間関係がうまくいかず仕事を転々とした。行き詰まる生活。そんな中、人生を大きく変える出会いがあった。

青葉被告
「京アニのアニメを見て、『今時こんなすごいアニメはないだろう」 と驚いた。文庫本を大人買いして、2日くらいで全部読んだ。なんとか自分でも書けないかと」

無職だった31歳のころ、京アニの代表作「涼宮ハルヒの憂鬱」の原作小説と出会う。強い感銘を受け、小説家を志した。しかし、その志が後に事件へとつながる“妄想”を生み出す。

そのひとつが実在する京アニの女性監督をめぐる妄想だった。ネット上の掲示板サイトで出会ったと勝手に思いこんだ。実際に青葉被告本人が一方的に書き込んだ掲示板サイトへの投稿が残されている。

「異常なほどの色気」
「ホレさせるだけホレさせて」

全く接点もない女性監督への感情をこう述べている。

青葉被告「はっきり言って恋愛感情です」
弁護人「LIKEかLOVEかでいうと?」
青葉被告「LOVEであります」

しかし、青葉被告の妄想の世界で2人の関係は徐々に悪化。やけになってある事件を起こす。京アニ事件を起こす7年前の2012年、茨城県内のコンビニエンスストアでおよそ2万円を奪い、逮捕されたのだ。

当時の青葉被告を知る人物がいる。集合住宅で管理人をしていた好田茂夫さんだ。

好田茂夫さん
「家賃を滞納した記録です。トータルは約230万円ですね」

そのとき青葉被告は定職についておらず、3年あまりで230万円もの家賃を滞納していた。さらに…

好田さん
「入居者から『(青葉被告の部屋から)異常な音やガラスの割れる音が聞こえる』と、『1回(部屋を)見てほしい』と言われて」

警察とともに本人不在の部屋に立ち入ると、驚くべき光景が広がっていたという。

好田さん
「壁に大きな穴が開いていて、ハンマーなどで叩き割ったというか。シンクには食器が置きっぱなしでした。食べ物の臭いや、腐敗したような臭いや、下水みたいな臭いが充満していた。変わっているというか異常かなと思いましたよね」

小説がうまく書けないことや妄想の世界で悪化していく女性監督との関係。そうしたことに怒りを強めては部屋で暴れていた。コンビニ強盗事件でも「刑事責任能力の有無」が重視されていた。