冬の高野山 今も人々が心を寄せる現役の宗教都市

この吉野を起点として和歌山県の高野山までつづく「弘法大師の道」というルートがあります。若き日の空海が吉野から南に一日歩き、さらに西に二日歩いて高野山を発見したという伝承に基づいた全長68キロの山道です。伝承通りであれば、空海はこのときに見つけた高野山にのちに金剛峯寺を開くことになります。

高野山の金剛峯寺も「紀伊山地の霊場と参詣道」の構成資産として世界遺産になっています。高野山は「一山境内地」といって、山全体がひとつのお寺とする聖地。新春特別企画では冬季の高野山を取り上げたのですが、吹雪の中にたたずむ根本大堂など冬ならではの美しさがありました。

高野山の森の中に奥之院という聖域があり、ここには歴史上の有名人の供養塔がたくさんあります。武田信玄、上杉謙信、織田信長、豊臣秀吉から始まって明治以降の政財界人のものまで。
高野山は「日本の総菩提寺」とも言われますが、それが実感出来る場所です。中には企業のものもあり、ヤクルトや福助の形をした供養塔まであります。
この奥之院の一番奥に御廟があり、そこで空海は今も生きていると高野山では信じられています。この御廟は聖域中の聖域なので撮影は許されず、玉川という御廟の手前に流れる川のところまでしかカメラは入ることができません。

この玉川で水行をしているところを撮影しました。氷点下にもなる高野山の冬。僧侶ではなく一般の人々で、白装束で川に入り、震えながら一心に祈り続ける姿…空海が開いて1200年、高野山は今も人々が心を寄せる現役の宗教都市なのだと実感した映像でした。
春の吉野、夏の宮島、冬の高野山…それぞれの最も美しい季節に、空海の足跡をたどってみるのも一興かと思います。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太