一番うれしかった大塚からの祝福

MGCで2位になったとき、赤﨑が「一番うれしかった」と振り返るシーンがある。8位でフィニッシュした大塚祥平(29)が、すぐに赤﨑のいるテントに来てくれた。
「よっしゃー、と言ってものすごく喜んでくださったんです。MGCまで3カ月間一緒にマラソン練習をさせていただきましたし、入社したときからずっと目標にしてきた存在です。その大塚さんに喜んでもらえたことが本当にうれしかった」。

赤﨑はMGCがマラソン3レース目。初マラソンは22年2月の別大で2時間09分17秒の7位。年齢は上だが同じ初マラソンの西山雄介(29、トヨタ自動車)が2時間07分47秒で優勝し、他にも初マラソン選手が上位にいた。
「初マラソンでも、今の時代2時間9分台ではうれしくありません」。

2度目は同年12月の福岡国際で2時間09分01秒の8位。日本人2位ではあったが、タイムは2時間9分台にとどまった。
「マラソン練習の最初で体調を崩したり、足首を捻って練習ができなかったりした期間がありました。別大よりも練習ができていない状態で走って、少しですが自己新記録が出た。しっかり練習ができれば記録を伸ばせる、という手応えを感じられました」。

2回のマラソンで参考にしたのが大塚だった。

20年の福岡国際マラソンを走る大塚を、沿道から応援した。7~8kmで転倒しながらも2時間07分38秒の自己新、当時のチーム最高記録で2位に入った。大塚は前年の19年9月のMGCで4位に入り、コロナ禍で21年に延期された東京五輪補欠代表に選ばれた。約1年半と、長い補欠代表期間を送る間に福岡で地力を見せたのだった。

2回目のマラソンで福岡国際を走る前に大塚のことを、赤﨑は次のように話していた。
「マイペースな人で競技の真面目な話はほとんどしませんが、努力している姿は一番身近で見て尊敬できる存在です」。

大塚は23年2月の大阪マラソンで、自己記録を2時間06分57秒まで縮めたが、日本人3位でまたも代表入りを逃した。それだけに2度目のMGCに懸ける思いは強かった。

だが練習していく過程で赤﨑は、同じ内容をこなしながらも自身の方に余裕があることがわかってきた。マラソン練習中にトラックの3000mや5000mに出ると、赤﨑の方が先着することが多かった。

同じメニューを同じ設定タイムで走っていても、大塚よりも良い練習ができている。それが自信となってMGCに臨むことができた。大塚も練習期間の最後の方で状態を良くすることに成功し、8位と面目を保った。

赤﨑にとってMGC2位は、先輩の大塚を目標としてやってきたから成し得たことだった。

最長区間の2区に意欲を持つ小山と、1区希望も2区の可能性もある赤﨑

同じマラソンで結果を出した小山と赤﨑だが、駅伝は対照的な戦績だ。前回のニューイヤー駅伝はともに最長区間の4区を走ったが、小山が区間3位でトップに立ったのに対し、赤﨑は区間29位でチームの順位を16位から22位に落としてしまった。福岡国際マラソンから1カ月後。タフなスケジュールを克服できなかった。

赤﨑も拓大時代には、全日本大学駅伝3区を区間新(区間3位)で走っている。ニューイヤー駅伝も入社1年目は7区で区間6位だった。駅伝が苦手というわけではなかった。
ただ、単独走に若干の苦手意識があることは認め、今回のニューイヤー駅伝も1区希望だという。
「チームの目標が8位入賞です。1区で先頭に立ってチームを勢いづけたい」。

今季の九電工は赤﨑以外の選手も充実している。11月には中村信一郎(30)と赤﨑が10000mで、長距離選手にとって肩書きとなる27分台の自己新を出した。山野力(23)は10月、11月と連続で27分台をマーク。山野、中村で2区と3区を、上りに強い大塚が3年連続で5区を走れば赤﨑を1区に起用できる。

中村、山野が1区と2区でも今季の2人の走力なら、赤﨑が16位でタスキを受けた前回のようにはならないはずだ。赤﨑が2区か3区の起用となっても単独走とはならず、上位の集団で走る可能性は高い。

赤﨑に駅伝の好成績が少ないのは、力自体がそこまで上がっていなかった、という見方もできる。しかしこの1年で、マラソンを意識しながら5000mの13分20秒台を2レース連続出すなど、スピードも含めたベースが上がっている。赤﨑はこれから、駅伝でも結果を残していく選手と言えるのではないか。駅伝でスピードのベースを今以上に上げられれば、マラソンでもさらに一段階上のレベルに到達できる。

一方の小山は、駅伝で結果を出しながらマラソンで成長した。結果を出す順番が赤﨑はマラソンが先になると思われるのに対し、小山は駅伝が先だった。選手の成長過程は複数あり、どちらが良いとは言えない部分である。

小山もさらに、スピードを研くために駅伝に出場する。
「前回は4区の最後の3kmが向かい風でしたが、今回から最長区間となる2区はずっと追い風です。最初から突っ込まないといけません。マラソンをやっている間はスピードができていなかったので、スピードをしっかりやって臨みます」。

トラックのトップ選手は3区と分散するだろうが、2区にも多く出場してくる。マラソン主体の小山が区間賞を取るのは簡単ではない。前回は「自分の区間は引き分けでいいので、前が見える位置で次の区間にタスキを渡せれば」という思いで最長区間の4区を走った。その結果でトップに立つことができた。

今回も2区なら「引き分けで十分だと思う。Hondaの後半は強い選手がいるので大きく負けなければいい。自分の記録よりもチームの位置が重要です」と、前回と同じ考え方で臨む。「駅伝で悠太さんの域の走りは厳しいです」と笑う。だが本人が話す以上の期待もある。

小山の座右の銘は「虎視眈眈」だ。MGCでも優勝候補には挙げられていなかったが、「マークされていなかったことも勝因の1つ」と、周囲の選手が見る自身を客観視して勝機をつかんだ。駅伝でもライバルたちが、“小山はマラソンを走ったばかりだから”と見ているのを感じたら、MGCのように勝負に出る。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
※写真は左から赤﨑選手、小山選手