普通の高校生よりも、もっと特別な場所

「2020年5月20日。戦後初めて甲子園大会が中止となった日のことをわたしたちは忘れません。

わたしたち球児にとって、高校生活のすべてと言われるほどの大きな目標を失い、あるものは野球を続け、あるものは野球から離れ、3年の時が経ちました。

過去を全て取り戻せないことを私たちは知っています。

それでも未練に終止符を打ち、これからも続いていくそれぞれの人生に向き合うために私たちはあの夏にこだわり抜きます」

あの夏を決して諦めないー当時の高校球児を代表して思いを伝えた。その声は、球場中に響き渡った。

<聖隷クリストファー高校OB 大橋琉也さん>
「これ以上のないものを体験できたなと思う。こうやって甲子園に立てて、上村先生と野球ができて、高校野球って楽しかったんだとあらためて思った」

<聖隷クリストファー高校OB 保坂将輝さん>
「僕たちにとっては普通の高校生よりも、もっと特別な場所になっていたので、そこでできたことは、もう言葉では表せない。
Qこの経験はこれからの人生に生きる?
「生きる、絶対。高校野球をやってよかったなと思う」

「戦後初、甲子園大会中止」。
3年前、こうした言葉がさまざまなメディアで飛び交った衝撃、そして、それを知り涙する高校生の姿が忘れられないという方、多いのではないか。私もその一人だ。

当時の高校球児を集めた大会が開かれることになり、そこに聖隷クリストファー高校OBが参加すると知った時、“取材”という形で彼らに寄り添うことはできないか、と強く思い、話を聞かせていただくことを決めた。

取材を進める中で感じたのは、「甲子園が高校球児にとって本当に特別な舞台であること」、そして「覆せないと分かっていても“甲子園大会中止”を完全に飲み込むことができなかったということ」だ。だからこそ、甲子園の土を踏みしめ、笑顔で入場行進をする聖隷OBナインの姿は、とても輝いて見えた。

聖地・甲子園に立ち、一度は消えてしまった「あの夏の夢」を「現実」として取り戻した元高校球児たち。もちろん、現役の高校球児として甲子園に立てなかった以上、すべてを取り戻すことはできていないかもしれない。それでも、多くの高校球児が気持ちを整理し、時計の針を進めるきっかけになった、すばらしい大会だったと思う。

コロナ禍で活躍の舞台を奪われた人は、高校野球界以外でも、さまざまな分野に存在する。3年越し、4年越し、たとえ10年越しになっても、当時の若者たちの夢を“形”にする取り組みは大切であると改めて感じ、また、報道機関の一員として、そこに何らかの“力添え”をすることを続けたいと、あらためてかみ締めた。