■「夢があったって、叶わない」戦争が変えた18歳少女の境遇

小川さんが出会った避難民に、18歳の少女がいた。リューダ・トートさん。家族と一緒に東部ドニプロ州パブログラードから避難してきた、2歳の娘がいるシングルマザーだ。故郷の村での暮らしも決して豊かではなかった。貯金もほとんどなく、着の身着のままの避難生活が続く。

リューダさん
「私たちがここに来たのは、故郷が爆撃されたから。パパが逃げるように言ったの。戦争からできるだけ離れる必要があった。この子に爆撃を見せたくなかったし、守らないといけなかった」
小川真吾さん
「もし戦争がなかったら何をしていた?」
リューダさん
「学校を卒業して働いていたと思う。この子を保育園に預けて自分のしたいことをしていたと思う」

一緒に逃げてきたのは弟2人と妹、そして母親のオクサナさん(35)だ。リューダさんの父親・ニコライさん(39)は自ら志願し、軍の予備役として村に残った。招集される日に備え軍事訓練を続けている。
母 オクサナさん(電話の音声)
「連絡はあった?」
父 ニコライさん
「軍から?」
オクサナさん
「そう 軍の徴兵事務所から」
ニコライさん
「逃げ出してないか電話があったから、ちゃんと家にいると伝えた。また連絡してくるそうだ」
オクサナさん
「予定は決まった?」

ニコライさん
「いや、連絡が取れるか確認されただけだ。電話番号を変えて逃げ出した人がいたらしい。俺は逃げないと言ってやった。逃げる場所なんてないしね。その時がきたら戦うさ」
小川さんは、リューダさんに父への思いを聞いた。
小川真吾さん
「お父さんに会いたい?」
リューダさん
「ええ、とても」

小川真吾さん
「お父さんとは電話を?」
リューダさん
「うん。2日前に」
小川真吾さん
「何を話したの?」
リューダさん
「ごめんなさい、止めて」

言葉に詰まり、その場から立ち去るリューダさん。

リューダさん
「パパと話したい」
オクサナさん
「不安になったのね。私も時々なるわ」
国連の機関によると、国内避難民の64%が職を追われ、収入を失った。リューダさんも故郷の学校で調理を学んでいたが、辞めざるをえなかった。戦争が変えた境遇。「将来の夢」について聞くと…

リューダさん
「夢?夢があったって、叶わない。夢なんて持てないわ」
小川さんにはある懸念があった。小川さんは17年前からコンゴやウガンダなどで紛争被害者や元子ども兵、避難民の自立支援を行ってきた。そこで目の当たりにしたのが、援助に頼りきった生活を長く続けると、社会復帰が難しくなる現実だ。

小川真吾さん
「人から助けてもらうことは嬉しいっていうことはある。だけど、それが長く続いていくと無力感を感じたり存在意義を見失ったり、そこに陥ってしまうと本当に一人一人が社会で自立をして普通に家族を養って普通の生活をしていくっていう、いわゆる社会復帰していくのがすごく難しい状況になってしまうというのはアフリカでずっと見てきたので」