20歳青年が住まい失った理由

坂本さん
「これなんですよ」

メールの送り主は、20歳の男性だった。緊急性を感じ、すぐに車を走らせる。

坂本さん
「あの子ですね。こんばんは。どうも、坂本です。寒いな。ずっと待っていてくれたん。大変やね。事務所で話聞くから」

田中聖輝さん(20)。建設現場で働いていたが、雇い止めに遭い、寮を追われ、2日間、野宿をしていた。所持金は100円。

坂本さん
「よく電話してくれたね」

田中さん
「もう最後やなと思って。これが無理ならネットカフェ入って、“24時間で精算”って書いてあったんですけど、(清算せず)警察呼ばれた方がマシかなって」

坂本さん
「それで捕まった方がマシやなって?」

会社の寮を追われた後、行く当てもなく、辿り着いたのは、幼いころによく遊んだ公園だった。

小学生の時に両親が離婚し、父親に引き取られた田中さん。その父親は、去年、脳梗塞で倒れ入院した際に、家賃を滞納していたことが発覚した。退去を命じられ「実家」はなくなり、父親は今も療養中だ。

2日間、食事をとっていないと聞き、差し出したのはカップ麺。健康状態に何ら問題のない20歳の青年が、なぜ職を失い、寮を追われることになったのか。

坂本さん
「なんで追い出されたん?」

田中さん
「父親の病院に色々呼ばれて、退院のこととか、施設に入るかもしれないとかで、話し合いが必要と言われて。あと、父親から例えば『ふりかけ持ってこい』とか『欲しいもの持って来い』『面会しに来い』とかで行っていたら、それが続いて週2回とか休むようになって。『もう辞めてくれるか』みたいな感じになって」

坂本さん
「それ『仕事やから行かれへん』とか言えなかった?親父優先?」

田中さん
「優先しちゃいましたね」

坂本さん
「それはなんで?怖いん?」

田中さん
「怖いというか、嫌いなんですけど、父親には僕しか頼れる人がいないのかなと思うと」

金遣いが荒く、借金を重ねていたという父親は、息子である田中さんの名前でも複数の消費者金融から金を借りていた。田中さんのもとには、身に覚えのない督促状が度々、届いていたという。

坂本さん
「お父さん、どんな人やったん?」

田中さん
「思い出が無いです。どんな話の時でも『お金』『お前のせいで生活がきついんやぞ』とか」

すぐに大阪市内のワンルームマンションを手配する。支援を求める人の多くは、40~50代だが、最近は若者からの相談も増加傾向にあるという。

2日後、坂本さんは田中さんを連れて区役所へ。生活保護の申請に立ち会うためだ。

職員
「生活保護を受けることになった人は、常に計画的な生活に努め、支出の節約を図り、生活の維持・向上に努めて下さい。平たく言ったら『真面目に生活して下さい』ってことですね。税金が原資になっているので、大事に使って、自立して頑張って下さい」

健康で文化的な最低限度の生活を保障する生活保護制度。だが、受給者に対する差別や偏見は根強く、支援が必要な人に行き届いていない側面もある。

また、困窮者を空き部屋に入居させ、生活保護につなぐ坂本さんの活動には、「貧困ビジネス」と揶揄する声があるのも事実だ。

坂本さん
「僕のこと『貧困ビジネス』って言う人もいますけど、それは全然いいんです。僕が許せないのは、生活保護を受ける人たちが『怠け者』みたいな。お前、同じ立場になった時に同じこと言えるの?って。自分が言われたとしたら、どう思うの?って。投げかけたいですね。『死にたい』って言っている人が、死なずに明るくなって、次こうしたいとか、生活保護を活用させてもらっているお陰で自分たちは生きられて、次の目標が見据えられて、死なずに済んで。『これが答えやん』って」

単身者に支給される生活保護費は、月に10万円ほど。田中さんは、一歩ずつ前に進もうと決意を固めていた。