げんきくん(6)初の散髪までの1年 “車から下りる”50分かけるも…「きょうはこれで終わり」
2022年、12月。
この日、初めて店で髪を切る男の子がやってくる。外で待っていたが…。
赤松さん
「ちょっと見に行ってもいいです?」
「車から出ない?全然いいですよ」
「げんちゃん、こんにちは」

げんきくん、6歳。知的障がいを伴う自閉スペクトラム症があり、初めての場所や他人との関わりが苦手だという。これまで美容室に行ったことはない。
げんきくんの母親「(お店に)まず入れるまでにどれくらいかかるか…」

赤松さん「ちょっとずつ練習から入りましょうか、お店に入る練習。それくらいの気持ちでいてくれたらいい、ゆっくりいきましょう。きょうはとりあえず仲良くなること」
50分かけて、車から降りることができた。

赤松さん「きょうはこれで終わりにしますし、時間がかかるかもしれないけど無理やり切って嫌がるのではなくて、大丈夫とわかればできる子なので、今後はそれでやっていきたい」

これまでは寝ている間に母親が髪を切っていた。成長とともに力も強くなる中で、美容室で散髪できるようになれば…。そう思うようになっていく。
そんな時、インターネットで赤松さんの存在を知る。しかし、半年以上も予約をためらった。周囲に障がいを理解されないことが多かったからだ。
げんきくんの母親「ああいう子を育ててると謝ることが多い。どこ行っても迷惑かけてごめんなさいって。やっぱりそういう気持ちってどこかにあって、嫌がったらどうしよう、美容師さんも嫌がったら…そういう気持ちが勝っちゃう」
ーー1週間後。
赤松さん「げんちゃん、こんにちは覚えてる?」
げんきくん「いやいやー」
店の入口へ近づいていく。でも、なかなか入ることができない。

赤松さん「げんちゃんにとっては、本当に一生懸命なことだから、僕らにとってはたったこれだけが、彼にとってはすごい山登ってるから、それがちょっとずつだけど、歩み寄ってるじゃないですか。お母さんはそこだけ褒めてあげてほしい」
日が暮れたあと、店に入ることができた。しかし、赤松さんの表情ははれなかった。

赤松さん
「申し訳ない気持ちの方が強いんです。げんちゃんに対して。あの子はわがままとかでは一切なくて、怖いとか嫌がる理由がいっぱいあって、それは僕も感じてたし、どれだけ寄り添えるかなって。きょうも寄り添えたとは思わないけど。でも入れたもんね。それでいい…いいんやろか…」