■黙認された異変 盛り土は約50mの高さに…

2009年から盛り土のための土砂搬入が本格化。異変はこの後から始まった。地元の漁師によれば、この頃から大雨が降ると幾度となく海の色が変わったという。行政は危機感を感じ始めた。

盛り土に関する対応記録(2009年11月・県作成の文書)
「土砂流出の恐れがあるのなら、止めさせるしかない」
「災害がもし発生すると行政が責任を問われる」 

熱海市は強制力のある措置命令で安全対策をとらせることを検討したが、行政指導にとどまった。A氏は水道管を盾にさらに強気に出る。

A氏(A氏と熱海市の通話とされる音声)
「まず求める前に、てめえらの方で全部配管を直せっていうんだ全部そんなもん。なめんなよ、あんまり。(盛り土のある)赤井谷に対して今後のものがほしいなら、てめえらの配管の答えも出してこい、コラ!」

熱海市はA氏に安全対策の実施を求め続けた。 

熱海市(A氏と熱海市の通話とされる音声)
「市の方も長いこと黙認という形で過ぎちゃったんですけど、最近になって港に流れ出る濁り水の量が多くなるにつれて、このままじゃまずいだろうと。濁り水に対する防災、それら含めて文書でお持ちしました」

A氏(A氏と熱海市の通話とされる音声)
「何か方法論ってあるんですか?現場サイドから、役所サイドから。お金かからない方法を言ってくださいね。お金かかる方法で言われると困っちゃう」

数週間後の2009年12月、恐れていたことが現実のものとなる。重機が土砂に埋まり、動けなくなった。盛り土の現場が大きく崩れた。


土の固め方が甘く、排水対策も不十分。土砂は重機を巻き込み急斜面を下った。

しかし、その後もゴミを含んだ土砂が搬入されるなど、適切な安全対策はとられず、盛り土は規制の15mを超え約50mの高さにまで積みあがっていた。

現場で作業した関係者たちは「A氏の指示だった」としている。
しかしA氏は、作業は業者が行って自分は関与していないと主張。

A氏
「実行したのは『現場作業の業者』。うちは名義人だけなんですよ、あくまで」

A氏は、土地を手放して10年も経つのに責任を問われるのかと不満を訴える。

ーー現場を是正する責任があるのは?

A氏
「新所有者でしょ、当然。10年間保有している安全に対する義務がある。安く買って都合の悪いところだけほっぽりっぱなしはないでしょ。いい迷惑」