今月8日に亡くなった歌手・谷村新司さん。音楽活動の傍ら、罪を犯した人を支援する施設や子ども食堂などをたびたび訪れていたことは、あまり知られていない。
「おとなは今、子どもたちは明日、未来」。谷村さんが、子どもたちを支援する団体への色紙に書いた言葉だ。「子どもたちのために大人が今、何ができるのか問われている」。生前、そう語っていた谷村さんは、立場の弱い人のために自ら行動し、共に歌い、支援者にも温かい眼差しを向ける人だった。

「抱えていた気持ちが少しでも楽になれば」元受刑者らと共に歌った「いい日旅立ち」

「谷村新司さんに会いたくないですか?」

法務省を担当する記者だった私に声がかかったのは、今から4年前の2019年3月。聞けば、法務省が所管する「更生保護施設」に、谷村さんが慰問に訪れるという。

「更生保護施設」は、元受刑者の社会復帰を支援する施設で、入所者はここでの生活を通して社会復帰を目指す。刑務所や少年院とは違い、この施設がどんな取り組みをしているのか、あまり知られていない。

「昴」や「いい日旅立ち」など、ヒット作を生み出した谷村さんに一目会いたいという浮ついた思いもあった。なにより、「更生保護施設はどんな施設なのか、見てみたい」と、谷村さんが訪れるという東京・八王子市の更生保護施設「紫翠苑(しすいえん)」へ取材に向かった。

東京のJR八王子駅から車で5分ほどの場所にある「紫翠苑」は、高台の住宅街にある。ここでは女性を専門に受け入れていて、年季が入った建物には取材当時、十数人の入所者が集団で生活していた。

この日、施設を訪れた谷村さんは、テレビで見慣れたタートルネックにジャケット姿。出迎えた職員一人ひとりに頭を下げ、握手にも気軽に応じていた。

谷村さんは入所者の女性たちと指輪を作ったり、昼食を食べたりして過ごした。入所者の隣に座り、「どんな歌が好きなの?」と気取らず話しかける姿は、世界的な歌手とは思えないほど、親しみを感じるものだった。

最後には、谷村さんの代表作「いい日旅立ち」を全員で合唱。途中、感極まって涙する入所者もいた。その女性は、私たちの取材にこう答えてくれた。

「『頑張ってね』と声をかけてもらって、力強く手を握ってもらった。うれしかった。絶対に頑張ろうって、頑張る勇気をもらいました」(入所者の女性)

そんな女性の姿を見ていた谷村さんは、恥ずかしそうにこう話していた。

「歌って、いろいろな感情を呼び起こしてくれる瞬間があって。(入所者の)彼女たちのなかで、この歌に何か思い入れがあったのかもしれない。何か、思い出したことがあったのかもしれない。涙となって感情が溢れて、抱えていた気持ちが少しでも楽になったのなら、私がここに来た意味があったのだと思う」(谷村さん)