「今さえ良ければ」という大人でいないために今できることを

2020年2月。谷村さんは、東京・荒川区の支援団体「小中校生の居場所・南千住」を訪れていた。地域住民が運営するこの団体では、共働きや母子家庭など、家庭に事情がある子どもたちに勉強を教えたり、夕食を提供したりして居場所を提供している。

取材に訪れた私に気がついた谷村さんが、耳打ちしてくれた。「いつも取材に来てくれて、ありがとうございます」。愛嬌のある笑顔でウインクする。いつもの飾らない姿にドキッとさせられた。

子どもたちや職員たちと夕食をともにした谷村さんはここでも、子どもたちと一緒に歌った。笑い声に包まれた谷村さんは、とても楽しそうに見えた。

「小さな子が家で食事ができない状態が現実にあって、それぞれの事情があって、それを飲み込んで、みんなでご飯を食べてワイワイする場を作ろうとする。『子どもたちのために』というその思いは、戦後すぐに始まった(社会を明るくする運動の)取り組みと、本質は同じだと感じました」(谷村さん)

谷村さんはそう言って、ボランティアで子どもたちの面倒をみているスタッフをねぎらった。さまざまな施設を訪れた谷村さんが最も敬意を払っていたのは、施設に勤める職員やボランティアの人たちだった。24時間365日、入所者や子どもたちのことを考える。そんな職員たちの姿を間近で見て、谷村さん自身、勇気づけられていたという。

谷村さんはこの日、団体から求められた色紙に、こう記した。

<おとなは今、子どもたちは明日、未来 谷村新司>

その意味を、谷村さんに問うた。

「私たち大人は今、子どもたちのために何ができるかを問われています。それが子どもたちの未来につながっていく。今の子どもたちが大人になったときに、大人たちに支えられたことを思い返してくれたら良い。『今さえ良ければ』という大人にならないためにも、今できることをやらないといけない」(谷村さん)

 そして、こう続けた。

「子どもたちや元受刑者の方々を支えているボランティアや保護司の方々から、『賑やかになって良かった』『うれしかった』という言葉をかけてもらえると、胸が熱くなります。立場の弱い人を支える人たちが元気じゃないと、こんな大事な取り組みは続けられない。そのために『谷村新司がいるのだ』と、いつも思います」(谷村さん)

立場の弱い人と、そんな人たちを支える人たちに、エールを送り続けた人だった。

TBSテレビ社会部 神保圭作