【男子81kg級】
金メダル争いの第1グループは2人。イ・ジョンファン(韓国)と、シャロフィディン・ボルタボエフ(ウズベキスタン、ただしエントリーを継続するかどうか不透明との情報があります)です。イは5月のドーハ世界選手権で銅メダル、この大会も含めて永瀬貴規(29)に2度勝利している実力者。担ぎ技でリズムを作る典型的な韓国型選手ですが、左小内巻込や左背負投、左体落など、組み手(右)と逆の奇襲技という飛び道具も備えています。ボルタボエフはパワーファイター。スピードもありますが軸は「力勝負」。背中を抱く形を得意としており、2019年の東京世界選手権では日本代表の藤原崇太郎を破って大いに名をあげました。

日本代表の老野祐平(22)は、実はまだ世界の序列の中に組み込まれていません。国内大会の戦いぶりや2022年1月のグランプリ・ポルトガル(唯一参加した国際大会です)の内容を見る限りこの2人と金メダルを争う力は十分と見積もられますし、実質的なデビュー戦となる今大会でいきなりトップに座る可能性すらありますが、大会前の現時点では第2グループの1人と位置付けておくのが穏当でしょう。このグループの選手としては6月に国際大会を連勝してもっか好調のソモン・マフマドベコフ(タジキスタン)、切れ味鋭い投げが持ち味の業師アビライハン・ジューバナザル(カザフスタン)、ジョージアから移籍した本格派ヌグザリ・タタラシヴィリ(アラブ首長国連邦)の名前が挙がります。

一段序列は下がりますが、柔道のきれいなモンゴルの新1番手ゲレルツヤ・ボロルオチルと、もとロシア籍で大物食い属性のあるアスケルビー・ゲルベコフ(バーレーン)の2人もダークホースとして意識しておきたいところです。

【男子90kg級】
2022年タシケント世界選手権の金メダリスト、ダヴラト・ボボノフ(ウズベキスタン)が実績・実力ともに頭1つ抜けています。スピードとパワーを兼ね備え、内股に背負投と技も多彩。日本選手のような袖と前襟を持った形を基本に、背中を抱いての密着「抱き勝負」など、シチュエーションに合わせてモード・技種を切り替えてきます。しかもすべてが強力で、技の左右を使いこなす器用さもある。攻略は至難の業です。

追いかけるのは日本の田嶋剛希(26)に、強力な右内股が武器のコムロンショフ・ウストピリヨン(タジキスタン)、まるで日本の本格派選手のような切れる投げ技が特徴のガンツルガ・アルタンバガナ(モンゴル)、たびたび強豪からポイントを奪い、内容も成績もブレイクの兆しが濃い業師エルラン・シェロフ(キルギスタン)の4人。

この4人の中で、ボボノフ打倒の1番手になるのは田嶋と考えて良いかと思います。代表選手紹介で書かせて頂いた通り担ぎ技の得意な勝負師ですが、その勝負度胸がバッチリ嵌るときもあれば、大物相手に気合を入れすぎて空回りするときもある。これまでは「ここ一番」で上がったテンションが裏目に出ることも多かったのですが、1人代表を務めるアジア大会という大舞台でこれを乗り越えることが出来るかどうか。注目したいと思います。

【男子100kg級】
金メダルを争うのは3名まで。東京五輪金メダリストのウルフアロン(27)、2022年世界選手権を制したムザファルベク・ツロボエフ(ウズベキスタン)、すこし離れて、もとロシア籍のジャファル・コストエフ(アラブ首長国連邦)。

身長2メートルの大巨人・ツロボエフは海外選手の注目1番手。ぜひ1度見てほしい選手です。長身を生かした払巻込・内股巻込が得意技ですが、最大の特徴は「左右」が利くこと。長い腕でガバと背中を掴み、右を守れば空いた左に、左を守れば右に、長い体を生かして思い切り投げを打ってきます。勝っても負けても実に豪快。昨今貴重な立ち振る舞いを見るだけでドキドキ出来る、俗な言葉でいえば「ゼニの取れる」選手だと思います。

日本代表・ウルフは非常に頭の良い選手で、柔道も緻密そのもの。例えば対ツロボエフに関しても、戦略・戦術面での不安はまったくありません。直近の国際大会4戦を見る限り「敵は我にあり」、コンディション調整が唯一最大の課題です。そしておそらく、五輪で「ウルフタイム」と呼ばれたようなスタミナ勝負は厳しい。6月のグランドスラム・ウランバートル(3位)では非常に良い動きを見せておりましたので、良い調整をし、早い段階で投げて決めるような動きのある展開に期待したいところです。

コストエフは巧みな組み手と、まるで「ジャーマンスープレックス」のような豪快極まりない裏投の二極を使いこなすパワーファイター。今回の陣容であれば、ツロボエフ・ウルフと同じグループに入ってくると思います。

この3人以外はダークホースという位置づけ。急成長中の若手バットフヤグ・ゴンチグスレン(モンゴル)は6月の国際大会で世界王者アルマン・アダミアン(中立選手団)に一本勝ちするなど、大物食い属性があります。極端な短躯から激しく動き、受けの強さ抜群のヌルリハン・シャルハン(カザフスタン)も「壁」としてトーナメントの流れをかき回す可能性あり。81kg級のトップファイターだったウラジミール・ゾロエフ(キルギスタン)はいきなり2階級上げての出場。どんな柔道を見せるか現時点ではまったく読めない、まさに不確定要素です。

【男子100kg超級】
金メダルを狙い得るのは4名と考えられます。もっかワールドランキング1位のテムル・ラヒモフ(タジキスタン)と、5月のドーハ世界選手権で銅メダルのアリシェル・ユスポフ(ウズベキスタン)、そして世界選手権で2度銅メダルを獲得しているキム・ミンジョン(韓国)に日本代表の太田彪雅(25)。

実力自体は拮抗。ただし相性までを考えると、この4人の中でも差が出て来ます。これまで斉藤立・影浦心らを倒した「日本人キラー」ユスポフ、そしてラヒモフの2人がともに太田が比較的苦手とする長身選手であること、キムが五輪までを睨んで今年ここまではあまりトレーニングのペースを上げていないという情報があることを考えると、ユスポフとラヒモフの中央アジア勢2人が優位とみておくべきでしょう。

このグループに挑む存在としては天理大卒の長身選手、オドフー・ツェツェンツェンゲル(モンゴル)の名前が挙がります。

次回は、女子7階級の勢力図を見ていきたいと思います。

(TEXT by 古田英毅)

【アジア大会柔道日程】
24日 女子48kg級、女子52kg級、男子60kg級、男子66kg級
25日 女子57kg級、女子63kg級、女子70kg級、男子73kg級、男子81kg級
26日 女子78kg級、女子78kg超級、男子90kg級、男子100kg級、男子100kg級
27日 混合団体