■男子81kg級 老野祐平(22、帝京平成大4年)
2008年北京五輪日本代表で現代表コーチの小野卓志さんの愛弟子、彼が監督を務める帝京平成大柔道部の一期生です。大学2年時の全日本ジュニアに優勝、3年生になった昨年は強化選手選考会(シニア)と全日本学生体重別選手権(学生)を制し、3つのカテゴリで日本一の称号を手にしました。得意技の内股は威力抜群、技自体も実に魅力的ですが、彼の特徴はそのスタイル自体にあり。おそらく今の若手で、いい意味でもっともモダンな柔道が出来る選手です。「まず組み手争いをして、組んでから投げる」旧いスタイルではなく、今の国際柔道の最前線である「組み手と投げがシームレスに繋がった」スピーディな柔道が持ち味。投げを決めるために組み手があり、組み手を完成させるために投げを使う。実に論理的な、このスタイル自体にぜひ注目して欲しいと思います。師匠の小野さんは2010年広州大会で金メダル。師弟揃ってのアジア大会制覇に期待です。既に五輪代表は永瀬貴規に内定しており、この選手も次代を見据えての代表ピックアップ。

■男子90kg級 田嶋剛希(26、パーク24)
得意技は背負投と袖釣込腰。低くゴロリと転がる投げ方ではなく、立ったまま、打点高く、そして体格差関係なく吹っ飛ばす豪快な「担ぎ技」が最大の売りです。体重無差別で行われる今年の全日本選手権では重量級選手をこの技で屠ってベスト4に進出。意外にもまだシニア国際大会の優勝はないのですが、この「投げる」こと自体の魅力か、同世代の選手の尊敬・ファンの支持が実に厚い。「業師」「勝負師」属性の濃い、試合を見ること自体が面白い選手です。高校・大学時代から団体戦に強く、世界選手権では団体戦メンバーとして2度金メダルを獲得。この戦いの中で世界王者クラスに勝ち星も挙げており、実力は誰もが認めるところ。今回は力にふさわしい「結果」に期待したい大会です。この階級は既に村尾三四郎がパリ五輪代表に内定していますが、日本は「五輪出場ランキング圏内に2人」のノルマが達成出来ておらず、もっかバックアッパー不在の状態。結果を残すことは、代表としての義務でもあります。

■100kg級 ウルフ アロン(27、パーク24)
言わずと知れた東京五輪の金メダリスト。当然2024年のパリ五輪でも2大会連続の金メダルが期待されるところですが、休養を経た昨秋の競技復帰後、国際大会4度を経て銅メダルが1つと、その成績は決して芳しくありません。この不調を受けて、もっか日本の100kg級は五輪出場可能なランキングポイントを持つ選手が飯田健太郎ギリギリ1人という非常事態。建前上「五輪代表選考対象としない」とされているこの大会ですが、まさに五輪代表争いに生き残るために、今大会は好成績が必達条件と考えられます。五輪では「ウルフタイム」という言葉でそのスタミナが注目されましたが、彼の特徴は頭脳的な柔道。組み立てはもちろん、「ウルフ大内刈」(引き手で横帯を持つ大内刈)、「ウルフ内股」(軸足を外に置き、相手の頭と足に極端な高低差を作り「シーソー」状態を強いる)など「技」自体にも彼独特のカスタマイズが効いています。冴えた技と組み立て、そしてバラエティ番組でも見せた切れ味鋭いコメントに期待しましょう。

■100kg超級 太田彪雅(26、旭化成)
小・中・高・カデ・ジュニアと全国大会で優勝。東海大学では主将を務め、母校24度目の日本一を引っ張ったエリート選手です。2021年には体重無差別で争う最高峰大会・全日本選手権で優勝。国内ではまさに頂点に立ちましたが、シニア国際大会では大学2年時のグランドスラム・エカテリンブルク優勝以降、25歳の今に至るまで金メダルは2つのみと意外な苦戦が続いています。最大の長所である組み手の強さが、上背のある海外選手相手にはなかなか発揮出来ないという印象。しかし8月のグランプリ・ザグレブではこの点に改善あり、決勝まで進んでもっか調子は上がり目です。ついにブレイクポイントが訪れるのか、大舞台で、持ち味の「強い組み手」の発揮と、得意技の内股の炸裂に期待したいところ。この階級は五輪代表に斉藤立が内定。バックアッパーの影浦心も高ランキングを維持しており、もっかの序列は3番手。来年の世界選手権代表獲得に向けて、存在感を上げたい大会でもあります。

(TEXT by 古田英毅)