中国・杭州で開催されるアジア大会、いよいよ開幕が来週23日に迫りました。このコラムでは、大会初日の24日からはじまる「柔道競技」の基本知識やみどころを、少しづつ紹介していきます。
1回目と2回目は、日本代表について。個人戦で代表を務める14選手の特徴をひとことずつ、簡単にお話したいと思います。
日本はこれまでの一律「(世界代表に次ぐ)現状の2番手の派遣」ではなく、非常に柔軟な派遣方針を採りました。この大会を敢えて五輪代表争いの対象大会から外すことで、制度に縛られ過ぎず、戦略上いまもっとも「出したい選手」を送り込んだと読み解けます。アジア大会という、競技レベルも注目度も高い大会を単なる「お祭り」ではなく、実効性のある強化の機会として最大限に利用しようという姿勢です。既にパリ五輪代表に内定している女子48kg級の角田夏実(31、SBC湘南美容クリニック)と男子73kg級の橋本壮市(32、パーク24)や、いまだ代表争いの渦中にある男子100kg級のウルフアロン(27、パーク24)、2028年ロサンゼルス五輪世代のエースと期待される男子60kg級の近藤隼斗(22、国士舘大4年)など、代表選手の位置づけは実に多様。また、日本は五輪出場可能なランキングポイント保有選手を各階級最低2人確保するという強化方針を採っており、これに則った「五輪代表のバックアッパー養成」という従来のアジア大会に近い文脈で選ばれた選手も非常に多くなっています。各階級、異なる立場、異なるモチベーションから挑む「アジア大会」という大舞台。2023年杭州大会は、いつも以上に楽しめる大会になるのではないかと思います。
■男子60kg級 近藤隼斗(22、国士舘大4年)
高校時代に全国大会のタイトルを総なめ、早い段階から次代のエースとして注目を浴びて来たスター候補です。昨年5月の全日本強化選手選考会と11月の講道館杯で優勝し、シニアのカテゴリでもブレイク。12月のグランドスラム東京では東京五輪銀メダルのヤン・ユンウェイ(台湾)に一本勝ちするなどして2位に食い込みました。この人の売りはなんといっても豪快な投げ。背負投、内股、大内刈、出足払、隅返とどの技も一撃で試合を終わらせる切れ味を持っています。「かつぐ」「跳ねる」「刈る」「払う」「捨てる」と、出来ないことがなく、決まり技が美しい。日本人のスポーツファンが抱く「これぞ日本柔道」という思いを託すに足る選手です。今回はロサンゼルス五輪を見据えて、若手強化という観点からの代表入り。
■男子66kg級 田中龍馬(21、筑波大4年)
2020年4月、大学2年生になりたてで迎えた国内最高峰大会「全日本選抜体重別選手権」で驚きの優勝。まさに彗星のごとく代表戦線に名乗りを挙げたこの大会以降、阿部一二三・丸山城志郎の世界王者2人に次ぐ国内3番手の座を守り続けています。得意技は背負投・袖釣込腰などの「担ぎ技」。海外選手の得意な密着・パワー戦法にも耐性があり、テクニック以上に体の逞しさや気力の強さが際立つ選手です。実はその後の国際大会ではメダリストクラスに勝ち星を挙げられていなかったのですが、今年7月のワールドマスターズ大会でもと世界王者アン・バウル(韓国)らトップ選手を立て続けに破って優勝。ついに壁を破り、勢いに乗ってこのアジア大会を迎えることとなりました。この選手も、ロサンゼルス五輪に向けた、若手育成の観点からの代表入りと読み解けます。
■男子73kg級 橋本壮市(32、パーク24)
2017年の世界選手権金メダリスト。昨年のタシケント世界選手権では銀、今年5月のドーハでは銅メダルを獲得し、32歳にして初めての五輪代表に内定しました。「二本しっかり持って投げる」ことを標榜する選手が多い日本代表にあって、橋本選手の柔道は少々毛色が異なります。相手に組み合うことを嫌がらせ、組み手を切らせ、左右の手を互いに持ち替えあうその駆け引きの中で己の投げに繋ぐというオリジナルスタイル。帰結としての投げも当然ながら独特で、「橋本スペシャル」と言われる片手の変則袖釣込腰を得意としています。今回のアジア大会は「(五輪に向けて)総合大会を経験したい」とのことで、出場打診に即答。五輪に向け、モチベーション高く臨むこと間違いなしです。今大会もオンリーワンの「橋本ワールド」を堪能しましょう。