抑止力の強化「戦う覚悟」発言の経緯

「今ほど、日本・台湾・アメリカをはじめとした有志の国に、強い抑止力を機能させる覚悟が求められている。こんな時代は無いのではないか。『戦う覚悟』です」(麻生副総裁)

8日、台北市内で開かれた国際フォーラムで講演した麻生氏は、対中国を念頭にこう力強く訴えた。この発言に対して、中国側はすぐさま反発。国内でも、立憲民主党の岡田克也幹事長が同日の記者会見で「台湾有事になったとしてもアメリカははっきりと軍事介入するとは言っていない。非常に軽率だ」と批判するなど、波紋を呼んだ。

なぜ、麻生氏は中国側の反発が予想される中、あのような発言をしたのか。その経緯について、麻生氏の訪台に同行した鈴木馨祐元外務副大臣が、9日、BSフジの番組内で解説した。

「今回、実は麻生太郎衆議院議員個人の発言ということではなくて、自民党副総裁という立場での講演。当然、これは政府の内部も含めて、調整をした結果のことですから。少なくともこのラインというのは『日本政府としてのライン』」(鈴木元外務副大臣)

また、鈴木氏は「岸田総理と極めて密に連携をした。今回もいろいろ訪問前にやっている」とも明らかにしている。

しかし、ある政府関係者は、「戦う覚悟」は政府として公式にすり合わせたラインではないと明言した。さらに、麻生氏の発言を聞いた外務省高官は「『戦う覚悟』といっても、色んな戦い方がある」と火消しに走った。言葉の解釈をうやむやにすることで、事態の鎮静化を図りたい意図が透けて見える。

いずれにせよ、麻生氏は「戦う覚悟」という言葉を使うことを、事前に周辺には伝えていた。「岸田総理の口から言えないからこそ、麻生氏自身の思い入れが強い言葉だった」と、周辺は語っている。

台湾の次の総統が重要 与党候補に注文も

「戦う覚悟」発言の同日、蔡英文総統と会談した麻生氏は、記者団に次のように話した。

「来年の1月に行われる(台湾総統選の)選挙の結果は、日本にとっても極めて大きな影響が出ますから、そういった意味で『次の人を育ててもらいたい』と蔡英文総統に申し上げました」(麻生副総裁)

会談の出席者によると、麻生氏は「来年5月に迫る蔡英文総統の任期中は、台湾有事が起こる可能性が低い」と見ていて、次の総統が台湾有事を起こさせないためには重要であると訴えたというのだ。

また、来年の総統選に立候補する与党民進党の頼清徳副総統との昼食会の冒頭、麻生氏はこう注文をつけた。

「選挙で選ばれて台湾の総統となる方の、この種(台湾有事)の問題に対する見識、いざとなった時に“台湾政府が持っている力”を台湾の自主防衛のために、きっちり使うという決意・覚悟というものが、我々の最大の関心です。」(麻生副総裁)

その後の昼食会の中で、麻生氏と頼氏は、台湾有事が起きた際の対応について認識をすり合わせた。初対面だった2人は「抑止力」を機能させるための議論を深めた。