獣医を目指していた20歳の大学生

 2021年1月。成人式で初めてスーツに袖を通した福岡県の宮崎大喜さん(20)。父親が向けたカメラに向かって少しはにかんだ笑顔を見せていた。そのわずか1か月後の2月、帰らぬ人となるとは誰も思いもしなかった。獣医を目指していた大喜さんの命を突然奪ったのは、飲酒運転だった。

 2000年12月福岡県生まれ。約3500グラムと大きく生まれ両親が心から喜んだこと、「なくてはならない=大気(空気)」のような存在になって欲しいとの願いが込められ「大喜(たいき)」と名付けられた。

 幼少期から生き物が大好きで、3歳年下の弟といつも仲が良く昆虫採集に出かけた。本が好きで、毎日遅くまで絵本を読むようせがみ、両親を困らせたこともあったという。

 獣医を目指すきっかけになったのは10歳のころに飼い始めた愛犬ジャッキーで、毎日のように散歩に出かけ、家族の誰よりも面倒をみた。

獣医を目指すきっかけになった愛犬ジャッキー

 高校時代に獣医を志したが1年浪人。浪人期間中も毎日遅くまで自習室を利用し、勉強に取り組む姿に、両親は頼もしさを感じていたという。

 1浪して念願の鹿児島大学・共同獣医学部に合格した際、入学手続きをかねて愛犬ジャッキーを含め家族みんなで鹿児島県指宿市に出かけた。砂むし温泉に入り、キャンプ場でバーベキューをし、入学をあらためてみんなで祝った。これが最後の家族旅行になった。

成人式のスーツ 両親が大切に保管している

 
 大喜さんは大学入学後、馬術部に入っていた。馬術部のブログにはこう書かれている。「1年間浪人生として勉強した後、念願の獣医学部に入学しました。馬術部の活動量に少し大変さも感じていますが、それ以上に馬に乗る楽しさ、馬の世話をする喜びなどを得ることができて、充実した日々を過ごすことができています。」

 この年、副キャプテンになることも決まっていた。部の先輩は「誰かに言われるわけでもなく、気付いたら部室を片づけてくれていた」「うまくなろうと必死に馬に乗って、毎日一生懸命、毎日楽しく馬術をしていた」と話す。

手入れされいつも丁寧に扱っていたという大喜さんの馬術道具 

ひた向きで何事にも一生懸命。「馬専門の獣医師になりたい」大学1年の夏から周囲に夢を語っていた。毎日朝早くから大学で馬の世話をしていて、この日もいつもどおり朝6時前に下宿先を出て自転車で大学に向かった。