「1人でも僕たちを殺せば、1000人の屈強な戦闘員を生む」

キャンプから2日後、ムハンマドくんの自宅を訪れた。大きな父親の遺影が置かれた居間の一角で、得意げにローラースケートを滑るムハンマドくん。その表情は、顔に迷彩のペンキを塗り、本物の銃を持っていた時と大違いだ。

須賀川記者
「なぜ家の中でローラースケートをするの?」

ムハンマドくん(13)
「だって外の道路は車が走っていて危ないでしょう」

実物の銃を握っている姿を知っているこちらとしては、反応しづらい。

ローラースケートが終わると、ビーチで遊びたいと友達を呼んできた。幼い妹2人も加わり、ビーチに向かう車の中はさながら遠足のような雰囲気になる。

移動中、記者に向かってこんな質問を投げかけてきた。

ムハンマドくん(13)
「あなたはイスラエルが好き?」

須賀川記者
「僕にはイスラエルに友達がいるんだよ」

ムハンマドくん(13)
「えーそれは良くない。イスラエルは悪い人たちばかりだよ」

須賀川記者
「そんなことないんだよ、僕の友達にもいい人がいるさ」

ムハンマドくんは生まれてこのかた13年、イスラエルによる封鎖でガザの外に出たことがない。どんな世界が広がっているのか、見たことすらない。イスラエルにも強硬派だけでなく、パレスチナに連帯を示す人がいることも知らない。

悲しくも、自らの父が殺害されたという事実と、武装闘争を掲げる大人たちによって、憎しみを募らせることしかできないのだ。

ビーチに着くと、記者にかけっこをしないかと持ちかけてきた。

須賀川記者
「もう無理!死んじゃう」

ムハンマドくん(13)
「こんなの朝飯前だぜ!」

屈託のない笑顔で駆け抜けるムハンマドくん。この時初めて、本来の13歳の表情を見せてくれた気がした。

ムハンマドくん(13)
「ここはとても好きな場所なんだ。波があって、風も気持ちよくて」

こう話すムハンマドくんに、ビーチと訓練キャンプ、どちらが好きか尋ねると、苦笑いを浮かべながら「キャンプ」と答えた。

この時、ムハンマドくんの叔父さんが、すっとカメラの後ろに近づいてきた。ムハンマドくんの表情が変わる。叔父が、「血を捧げるんだ」「イスラエルを許さない」と口を挟むと、彼は再び話し出した。

ムハンマドくん(13)
「お父さんはとても優しかった。だからお父さんがやってきたことを受け継ぎたいんだ。イスラエルが1人でも僕たちを殺せば、それは将来、1000人の屈強な戦闘員を生むことになるよ」

紛争に巻き込まれ、「天井のない監獄」によって様々な選択肢を奪われた、ガザの子どもたち。彼らの多くは、戦争がない日常を知らない。

ムハンマドくんが友達と一緒に壁の外に出て、イスラエルのビーチで同じようにかけっこができるようになる日は来るのだろうか。

TBSテレビ「つなぐ、つながるSP 戦争と子どもたち 2023→1945」取材班