ヒジャブも、スカート丈も変化
今回、総理の中東訪問に同行取材するにあたって、外務省からは「女性は髪を覆う、肌の露出を避けるために長袖、足の隠れるパンツスタイルが望ましい」とアドバイスを受けていた。特にサウジアラビアは厳しいと聞いていたので、それなりに緊張し、クローゼットからそれっぽく見えるスカーフを引っ張り出して持参した。ところが、実際にサウジアラビアに行ってみると、外国人はヒジャブをしていない女性をかなり見かけた。現地の日本大使館の女性職員たちも髪を覆っていないが、注意されている様子はない。
岸田総理とムハンマド皇太子との首脳会談の場ではどうだったのか、政府関係者に聞いた。「女性も同席していて、そのうち一人は、けっこう大胆に前髪が出る、緩いヒジャブのかぶり方でビックリした」とのことだった。ちなみに数年前は、日本外務省の女性職員は首脳会談には同席すらできず、首脳夫人と一緒の部屋にいたという。その当時、女性たちの履くスカートの丈はくるぶしまでだったそうだが、今は膝丈までになった。たった数年でスカートの丈がそれだけ短くなるとは、隔世の感がある。
女性の運転にせよ、服装にせよ、ムハンマド皇太子が進める”社会改革”に伴う変化だ。中東情勢に詳しい専門家は、こう解説する。「要するに、若者ウケのいいことをやっているのがポイント。ムハンマド皇太子は長く在位することを意識しているから、若者を意識してやっている。外国から記者殺害や人権問題で批判されても、国内の若者に人気がある」

被るべきか、被らぬべきか
サウジアラビアでの一連の取材を終え、現地からの報告レポートを収録することになった。記者として画面に出ることになる。ヒジャブ(風)のスカーフを被るか被らないか、正直、迷った。いま、少なくとも外国人であれば、髪を覆っていなくても当局から見咎められることはない。サウジアラビア社会の“今の空気感”を伝えるには、実はその方がふさわしいのではないか、と考えた。一度は髪を覆わずにレポートを収録したが、ホテルの部屋に戻ると、その日見かけた女性たちの姿が次々と蘇ってくる。街中の彼女たちは、やっぱりヒジャブ姿だったな…。現地の文化には敬意を払いたいし、郷に入っては郷に従えという言葉もある。どちらが違和感が少ないか悩んだ挙句、髪を覆ってレポートを撮り直すことにした(深夜でカメラクルーには負担をかけてしまった)。それが“正解”だったかは分からない。いつか再びサウジアラビアを取材する機会があったら、その時は今ほど悩まずに済むだろうか。

TBSテレビ政治部 外務省担当キャップ 宮本晴代
(写真:TBSテレビ映像取材部 阿部 直カメラマン)