7月16日から19日まで、岸田総理が中東3か国=サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、カタールを訪れた。このなかでサウジアラビアはイスラム教の戒律が厳しいことで知られ、外国メディアに対する取材許可は下りにくい。今回、総理の同行取材という形で滞在が許された女性記者として、わずかな時間だったが現場で見えたものを記したい。

「あ、女の人が運転している!しかもヒジャブなしで」

サウジアラビア西部の都市・ジッダに到着後、マイクロバスで移動中、いきなり目に飛び込んできた光景だ。交通量の多い道中、一瞬のことだったが、SUVタイプの車の運転席に、長い黒髪を露わにした女性が、一人でハンドルを握っているのが確かに見えた。控えめに言って、度肝を抜かれた。なにしろ、特に女性に関して戒律が厳しいことで知られるサウジアラビアである。様々な場面で、女性は男性親族の付き添いが必要とされる。女性による自動車の運転が解禁されたのは2018年のことだ。国の実権を握るムハンマド皇太子が進める“社会改革”の一環だ。

私が乗っていたのは、日本からの同行記者団が乗るバスだ。約13時間のフライト直後で皆疲れていたのか、他の人たちはその女性の存在に気付いた様子はない。幻を見たのだろうか。あるいは、“仕込み”だろうか、とも疑った。私はこれまで北朝鮮には10回以上渡航した。外国人向けに見せたいものを見せる国のやり方は知っているつもりだ。ただ、バスのドライバーの混乱ぶり(行き先のホテルを間違えて何度も同じ道をぐるぐるしている)を見ると、そんな手の込みいった“仕込み”とは到底思えない。

その後、一人で車を運転する女性を見かけることはなかった。女性たちは髪や顔を覆い、男性の運転する車の助手席や後部座席に座っていた。サウジ社会のなかではまだ少数派なのだろうが、一人で車を運転する強者も出てきているということか。