少年たちは理不尽な社会の被害者?
少年院に収容された少年のうち発達障害と診断されている者は16.8%。虐待を受けた経験がある少年の割合は男子40%。女子58.9%にのぼる。(令和4年版犯罪白書より)
日々少年たちと接している石井教官に聞いた。

--少年院に来る前に誰かが何か出来たのではとの思いは?
「それは…あります。正直なところで言えばもう少し周りのサポートとか関わり方でだいぶ変わってくるもので」
少年たちは弱い存在で社会の理不尽に追い詰められたんでしょうか?
こう聞くと、教官は厳しい表情に変わった。
「そうですね…ちょっと厳しい言い方をすると、やっぱり最後に非行・犯罪をしようと決めたのは自分なので。そこはしっかり責任を取らなければいけないと思います。もう少し良い環境であればっていうのは事実あるんですけど、人を傷つけることへの抵抗感や罪悪感を彼らは持ち続けないといけないと思います」
少年たちは職業指導や被害者の心情理解指導などを受け1年前後で社会に戻る。出院後は社会を支える一員になることを求められるが、少年たちを取り巻く環境は大きく変わった。
■社会のルールなぜ必要?「うーん…何でですかね…」
2022年、改正少年法施行。18歳と19歳の少年は大きな影響を受ける。

これまでは故意に被害者を死亡させた時のみ裁判で二十歳以上と同じ扱いを受けていた。
しかし去年4月から、強盗や放火、組織的詐欺罪なども対象に追加された。さらにこれらの罪を犯して起訴されれば実名報道が解禁される。法務省は立ち直り教育を充実させるため新しい矯正プログラムを導入した。

「社会には必ず法律やルールがあります。それはなぜでしょう」
教官が少年たちに問いかけた。
新プログラム「大人へのステップ」。目的は“成人に必要な知識と責任”を学ぶこと。
この日のテーマは”社会のルール”。家庭や学校などで問題を抱え、社会の常識やルールを十分に学べなかった少年も多いためだ。教官は身近な例え話をもとに少年たちが自ら考えるよう促した。
教官
「マンションでごみの出し方が悪いから、酷いにおいがする。なんでごみ捨てのルールが必要なのか考えてもらいましょう」
少年たち
「なんであるか・・・ うーん・・・ 何でですかね・・・」
「住民だけじゃなくて地域の人に迷惑をかけてる」
「その人たち何でルールを守らないんですかね?守れてない人のためにレベルを合わせないといけない」
教官
「良い着眼点だね 全員が守ればこんなことする必要が無い」
少年たちは違反行為を客観視することでルールがなぜ必要か理解したようだった。プログラムはもう一つの目的「非行の反省」へと移る。
教官
「ルールを守らない人の気持ちはどんな気持ちだと思いますか?」
少年たち
「面倒臭い。もうばれないようにしよう」
「ルールを破っても何も言ってこなければ別に良い」
「生活が苦しくなってきつくてごめんなさい」
教官
「あえて守らない人の気持ちを聞いたけど自分に当てはまる所ってあるんじゃないかな。みんなが社会復帰する時にどう改善するか考えてもらいたい」
「大人へのステップ」では3か月かけて家族、契約トラブル、仕事などについても学ぶ。
少年たちが周りに流されず正しい選択ができるようになるためだ。彼らが社会に戻ってやり直そうとした時、応援してくれる人はどれほどいるだろうか。
少年を支える人たち 少年院の“成人式”
年に一度の特別な日。「二十歳を祝う会」が行われる。成人年齢引き下げ前は成人式と呼ばれていた。院内の体育館には大勢の保護者が集まっている。