「壁」を動かすだけでは解決しない
「壁」が人手不足の障害ならば、せめて賃上げ分ぐらい「壁」を動かす、つまり年収上限を引き上げれば良いのではないか、という意見もあるでしょう。
しかし、それは今の制度に問題がないならという話です。上限引き上げでは、所得があるのに社会保険に加入しない人を増やす政策になってしまいます。
多様な生き方、働き方がある今の時代は、所得のある人にはできるだけ社会保険に本人加入してもらうことが望ましいという考え方が強くなっています。
働く人にとっては、将来、自分の年金給付につながりますし、保険制度を安定させることにも寄与するからです。
今の「壁」は、「専業主婦だけれど、短時間だけパートで働く妻」を想定し、それを優遇、継続させようという制度と言えるでしょう。
そして、「専業主婦優遇」との議論は、突き詰めれば、配偶者の扶養に入れば年金や医療の保険料を払わずに給付が受けられるという「第3号被保険者制度」の問題にもつながっています。賛否はともかくとしても、制度設計の根本の議論が避けて通れないのです。
3年で抜本改革の覚悟はあるだろうか
「年収の壁」の制度変更の議論には、人それぞれの損得勘定はもちろんのこと、「家族観」の問題も関わってきそうです。
だからこそ、「とりあえず」助成金でしのぐ、ということになったわけですが、岸田政権からは、抜本改革に向けたビジョンも覚悟も聞こえてきません。
「とりあえず」の助成金が3年で終わらず、だらだら続くことを恐れずにはいられません。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)