“グレーゾーン”の女性たち 声が上げられない

小関被告と面会し精神鑑定を行った医師は、“孤立出産”に至った背景をこう指摘します。

人吉こころのホスピタル 精神科・興野康也精神科医師
「小関さんに関して鑑定結果としてあったのは、一つは境界知能、もう一つはADHDのグレーゾーンですね」

グレーゾーンとは「発達障害の診断基準には至らないものの一部症状が見られる状態」です。また、小関被告はIQも平均を下回っていたといいます。医師はこうした特性が、“妊娠を相談できなかった”原因だと見ているのです。

興野医師
「困ったときに『私困っている』とちゃんと言える人は、孤立出産にまでならない。自分の困っていることを感じるのも苦手だし、それを意識して人に伝えるのも苦手なことが多い」

小関被告
「親に風俗をやっている事を知られるのがすごく嫌だった。金銭的余裕もない、赤ちゃんの父親もわからない。サポートは受けられないと思っていた」

性風俗で働いていた事を理由に、声をあげなかった小関被告。夜の世界で働く女性たちの中には、客から性行為を求められるなど、小関被告と同じような経験をした人も少なくありません。

札幌の風俗で働く アキさん(仮名)
「サイトに書かれているウソを、お客様が信じてくることは結構ある。何で指名されたんですかと聞いた時に、サイトで“本番”ができると書いてあったから、『できるんだよね』と言われたことがあって。泣き寝入りが多いと思います。(Q.場合によっては、なし崩し的にやらせちゃう子もいる?)いると思います」

「普通の人生が生きられない」 “孤立”した女性たち

“それでも風俗で働くしかなかった”。パニック障害になり、生活のため風俗で働いていた女性はこう振り返ります。

過去に風俗で勤務していた にゃんさん(仮名)
“普通”と呼ばれるような人生、そういう風に生きられない人たちも、たくさんいるのも事実で、障害がある身としては、ありがたいなというか、風俗でしかお金を稼いで生きていけない」

その上で妊娠を相談できなかった小関被告については…

にゃんさん
「自分が小関被告の立場に立った時にどうするかなと思うと、同じようにSOSを出せなかったと思いますね。実際助けを求めたところで、責められるだけで終わって、帰されたらどうしようとか、いろんな不安との葛藤があって、相談に行けなかったんだろうなって」

風俗で働く女性に法律相談などの支援を行う「風テラス」。ソーシャルワーカーの橋本さんは、風俗業界には、経済面や人間関係など困難を抱えた人が集まりやすく、中にはグレーゾーンや軽度知的障害の人も少なくないのではとみています。

風テラス 橋本久美子さん
「デリヘルが良い例で、時間には縛られない。マニュアルも最低限。社会の複雑な仕組みの労働には就けない中で、今まで散々クビになってきている中で、やっとお金もらえるわけですよね。(Q.女性ばかりが責められて、男性は責任をとらないが?)私のような支援者と呼ばれる人たちも『風俗で働いている。とんでもない』となりがちなんですね。自分で選んで自分で決めたんだよね。『自分で責任を取りなさい』じゃなくて、人は誰でも困ったときは助けを求めていいんだというふうに変わっていかなくちゃいけない」