ファースト・リパブリック・バンクが破綻
本コラムの前々号「金融不安が収まったとは言えない」でも触れたように、アメリカでは地方銀行の破綻が続いています。
1日にはカリフォルニア州のファースト・リパブリック・バンク(FRC)が経営破綻し、リーマンショック以来最大の金融破綻になりました。預金流出が激しかっただけに破綻そのものは、一定、予想されていましたが、破綻処理の内容を見ると、金融当局の手詰まり感もうかがえます。
まず、破綻処理に時間がかかりました。金融機関の破綻処理は、「週末のうち、月曜日朝まで」というのが鉄則ですが、当初目指していたアジア市場の朝には間に合わず、米東部時間早朝までもつれ込みました。
時間がかかったのは、破綻認定と引受先を同時に決定したかったからです。いったん公的管理に置けば、先の2行と同様、特別に預金全額保護を宣言せざるを得なくなります。また、公的管理下で資産が一層劣化し、処理コストも膨らんでしまうのです。
今回は、最大手銀行のJPモルガン・チェイスに買収してもらう、つまり預金も融資債権も引き継いでもらうことで、決着させましたが、JPモルガンのダイモンCEOは「政府の要請で入札に参加した」と認めています。要は、他に引き受け手などいなかったのです。
その分、買収条件は破格でした。買収額106億ドルは、引き継ぐ融資債権と有価証券の合計額2030億ドルと預金額920億ドルの差である1010億ドルに比べて、はるかに抑えられた額でした。しかも、引き継ぐ融資債権について、今後損失が発生した場合には、FDIC(連邦預金保険公社)が損失の8割を負担すると言います。
そもそも全米の預金シェアが10%を超すJPモルガンには、他行買収は認められないはずですが、破綻処理は例外ということで引き取ってもらったのです。
「次の銀行破綻」に高まる不安
こうして見ると、次の銀行破綻が現実化した際には、当局の取り得る手段がそれほど残っていないことがうかがえます。もちろん、当局としては、今回のファースト・リパブリック・バンクを「最後の破綻」にしたいと思っているわけですが、市場では、すでにいくつかの地銀株が急落しています。
「JPモルガンさえ引き受けられないとしたら、もう次はペイオフが実施か」といった不安を預金者が抱くのは当然でしょう。その不安が直ちに預金流出につながるのが、今の時代の怖さです。「金融村」の常識と「SNS村」の行動様式は全く違うことが、今回の金融不安の教訓です。
FRBのパウエル議長は、今回の利上げ決定後の記者会見で、金融システムの安定に向けた決意も述べました。しかし、事態は沈静化するどころか、逆に市場は、「利上げ打ち止め宣言」すらない、インフレ退治優先の能天気な姿勢と受け取り、不信感をさらに加速させています。
金融不安は、銀行の貸し出し態度の慎重化を通じて、利上げ何回分にも及ぶ引き締め効果を生じさせています。これが、いつ、どの程度、効いてくるのかが、今後の金融政策を読む大きな鍵になるでしょう。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)