「これは“歴史作り”が始まった」
その少女が初めて表舞台に姿を見せたのは、去年11月大陸間弾道ミサイル「火星17型」の発射実験だ。金正恩氏に寄り添っていた少女、名前は「ジュエ」といわれる金正恩氏の娘。年齢は公表されていないが10歳くらいか。北朝鮮メディアはこの時、少女を”愛するお子様”と紹介した。その10日ほど後には“尊貴なお子様”と呼んだ。以来、金正恩氏は様々なシーンに娘を同行させた。そして、今年2月“愛するお子様”は“尊敬するお子様”と呼ばれるようになった。
礒崎教授によればわずか10歳ほどの娘に“尊敬する”は極めて異例で、これは“歴史作り”が始まったのではという。果たして“歴史作り”とは?

慶応大学 礒崎敦仁 教授
「まだ肩書もなく、10歳くらいで後継者とかっていう話ではないんですけれど…。金正日氏の著作集全100巻が刊行されていますが、第1巻の始まりは金正日氏が10歳の時に述べたことから始まってる。今の金正恩氏も9歳の時に「あしどり」という歌が与えられた。お兄さんには与えられなかったのに…。かなり若い段階で革命活動を行っていたという歴史作りが後になって公表されるんですね。(中略)この尊敬するという言葉の使い方は、考えておかなきゃいけない。例えば妹の金与正氏には使われたことはない。金正恩氏が後継者として初めて登場した時に使われた言葉、10数年前に…」

“尊敬”という言葉以外にも写真の写り方だけ見ても、重要な視察に同行して金正恩氏の隣で堂々としている。これを目にした国民は彼女を特別な存在と思うに違いないと礒崎教授はいう。一方で、少女が後継者ではないだろうと見るのは平井氏だ。
共同通信社 平井久志 客員論説委員
「後継と断じるのは難しい。北朝鮮は非常に男尊女卑というか儒教的な雰囲気の強い社会ですから…。ただ“尊敬する”は注意すべき。”愛する”の主語は金正恩と考えれば娘を父が愛するということでいいんですけれど、“尊敬する”となると主語は人民ですよね。そうなると政治システムと関係してくる。それで最近は彼女の写真はあるんですが、“愛する”も“尊敬する”もなく彼女の記事そのものが無くなった。つまり当局自身も彼女をどうワーディングするべきか決断がつかないでいる」

この少女が重要な存在であることは間違いないようだが、分かっていないことが多過ぎるのもまた事実だ。一部の情報では、金正恩氏には3人の子どもがいるとされるが、2010年生まれの長男とされる子は、その存在も確かな情報はひとつもない。更に少女の名前「ジュエ」というのも極めて怪しい…。
慶応大学 礒崎敦仁 教授
「このジュエという名前も、2013年9月にアメリカのバスケットボール選手デニス・ロッドマン氏が金正恩氏に会いに行った時、生まれたばかりの赤ん坊を見せて『これがジュエだ』って紹介された、っていうロッドマン氏の証言だけに基づいている。でもロッドマンに朝鮮語ができるわけでもなく、ジョンウンの1文字を取って『ジョンエ』の聞き間違いかも知れない」
とにかく未確認情報だらけで、まだ後継を論じることのできる段階ではなさそうだ。ともあれ、現時点で金正恩氏の“お気に入り”であることは間違いないようだ。
(BS-TBS 『報道1930』 4月25日放送より)