「海にも人にも優しい漁業の形」を目指し、岡山県玉野市で全く新しい漁に挑戦する夫婦がいます。「完全受注漁」と呼ばれる新たな漁業のあり方、その現場を取材しました。
網から上がってきたのは「瀬戸内自慢の魚」たち…でも逃がします
網から上がってきたのは、生きのいいマダイです。そして、高級魚のハモにカレイなど、どれも瀬戸内で取れる自慢の魚たちです(【写真を見る】に美味しそうな魚たちの画像があります)。

(佐藤訓通記者 リポート)
「お刺身にしたら美味しそうな立派なサイズのマダイなんですが…海に返しちゃって大丈夫なんですか?」
(漁師・富永邦彦さん)
「はい、きょうは十分魚がとれたので。必要以上にとれた分は逃がします。未来に海の資源を残すために」
未来に海の資源を残したい…「完全受注漁」とは一体?
インターネットで注文を受けた分だけの魚をとる、新たな漁のかたち「完全受注漁」です。玉野市の胸上漁協で底引き網漁を行う、富永邦彦さんです。
この日、一度の漁で取れたマダイは16匹。このうち受注した量より「余分に取れた6匹」を再び海へとリリースしました。一見すると「もったいない」と感じるかも知れませんが…。

(漁師・富永邦彦さん)
「(顧客からは)今の時代にあった食品ロスであったり、自分たちもこうやって自然界に貢献できるんだ、という声はいただいています」
「海は男のロマン!」突然、会社員を辞め、妻の実家の漁師を継ぐ
以前は大阪で会社員をしていた富永さん。しかし、「海は男のロマン」の憧れから退職。2008年に岡山県玉野市で漁師をしていた妻・美保さんの実家に後継ぎとして弟子入りしました。市場への出荷と合わせて、個別の注文にも応じるスタイルを始めたのは7年前。去年からは市場への出荷を止め個別注文のみに対応する「完全受注漁」へと舵を切りました。

これまでと比べ、全体の漁獲量は3分の1程度に減ったものの、「仲卸を通さない消費者との直接取引」により魚の単価が上がり、結果これまでの収入を維持できていると言います。
(漁師・富永邦彦さん)
「『もうかる漁業が持続可能な漁業』かと思っていたのですが、水揚げも減ってきたので、『未来に残すことが持続可能な漁業』かと思うようになりました。本当に今まで漁師は市場に卸すものだと思っていたので、最初は勇気がいりましたけど、でも思いのほか実際にお客さんからの注文がずっとあるので、こういうニーズもあるんだなって実感しました」

「完全受注漁」人気の背景には「魚の鮮度」
富永さんのスタイルが市場に受け入れられている理由の一つが、「魚の鮮度」です。漁から港に戻ると、妻の美保さんとすぐに鮮度を保つ処理を行い、発送準備に取り掛かります。そして、その日のうちに全国の顧客のもとへと発送します。

(妻・美保さん)
「スーパーとあまり変わらない値段で、エンドユーザーさんに届くようにはなっています。それこそ直送なのでバチバチに新鮮な魚をスーパーと同程度の価格で買えるっていうのは、めちゃくちゃメリットかな」
