日本メディアの「常識」は海外では「非常識」?原則匿名の国も

しかし、この日本メディアの「常識」は海外では「非常識」となる場合もある。私が去年4月まで赴任していたフランスでは法的な成人年齢は18歳だが、未成年者の犯罪者の名前は原則、裁判の判決が出た後でも公表されない。この点は日本と同じだが、未成年に限らず成人の犯罪被疑者の実名を現地メディアが報じているのをあまり目にしなかった。特派員としては日本で取り上げるほどのレベルで現地の事件・事故を取り扱ってはいなかったが、実名で報じたのは政治家など公人や日本でも有名な人、そしてテロリストくらいであっただろうか。成人の被疑者の実名報道については特に法律や決まりはないようで各報道機関に任されている。実名をあえて公表する必要性が高くないと判断された場合は匿名で報道するのが一般的になっている。

またフランスのお隣のドイツではさらに「匿名」に比重をおいている印象がある。ドイツの成人年齢も18歳。日本の少年法にあたる「少年裁判所法」という法律があり、14歳以上18歳未満の少年に適用されている。18歳以上21歳未満の人も「若年成人」もしくは「青年」と呼ばれ、この少年裁判所法が適用されることも多いという。罪を犯した人物の成熟度や犯罪内容によって、適用するかどうか判断されているようだ。ドイツの報道協議会(日本のBPOのような役割を担う民間の組織)は18歳未満については通常、身元が分からないようにすることを推奨している。メディアの判断に任されるのだが、原則匿名ではある。

しかし、この方針は少年だけのものではない。上記の報道評議会は倫理綱領で、公人もしくは実名報道に社会的意味があるとみなされる場合以外は、成人であっても匿名報道で顔写真も公開しないように推奨している。実際、2015年にジャーマンウィングスの副操縦士が自殺するために、操縦していた飛行機を墜落させ、乗員乗客150人全員が死亡した大事件であっても、一部の大衆紙が副操縦士の男を実名・顔写真付きで報道したものの、ARDやZDFといった公共テレビは匿名(苗字イニシャルだけ)、顔写真は加工しての使用に留めていた。また、ドイツでは犠牲者や被害者も通常匿名である。

フランスやドイツの多くのメディアは基本的には「実名」でなくとも事件、事故の悲惨さは伝わり、社会で教訓を共有し再発防止へとつなげていくことができると考えている節がある。多くの日本のメディアが「当たり前」としていることとは違った考え方であり、報道での対応も異なっているといえる。