最前線の夫の近くで爆発音

戦闘が激しいドネツク州の最前線にいるウラディスラフさんからユリアさんのもとにオンライン電話があった。

夫と話をする時のユリアさんは、他の家族の前で見せる表情とは違い、胸をときめかせているように見えた。

「これ、僕の朝食だよ」とタバコを吸い続ける夫に「あなた、ちょっと吸いすぎよ」とたしなめる新妻の顔も覗かせた。

新婚中の二人にとって貴重な時間だが、私は少しだけお邪魔させてもらい、ウラディスラフさんにユリアさんと結婚した感想を聞いた。

「もちろん嬉しかったです。1日も早く戦争を終わらせて、ユリアをウクライナに連れて帰りたいです」

詳しい任務の内容や場所は明かせないとした上で、前線基地の設営にあたっていると教えてくれた。

ただ、死は常に隣り合わせにある。前日には四方八方から銃撃されたため、建設途中の宿舎を捨てて斧やトンカチなどの道具をもったまま逃げ回ったという。

夫の現状を聞くにつれ、ユリアさんの表情が曇っていった。

ユリアさん:
「気をつけてよ」

夫のウラディスラフさん:
「僕にはどうしようもないけど頑張るよ」

ユリアさん:
「あなた次第よ」

夫のウラディスラフさん:
「できる限りのことはするけど、どこに着弾するかは分からないよ」

その時、電話の向こう側で「バーン」という大きな着弾音がした。仲間の兵士のざわめきとともに、慌ただしく移動する足音が聞こえた。

夫のウラディスラフさん:
「すぐ近くだ」

ユリアさん:
「そうね」

夫のウラディスラフさん:
「じゃあ、またあとでね。愛しているよ」

ユリアさん:
「私も愛しているわ。気をつけて」

そして、電話が切れた。ユリアさんは沈んだ顔つきになっていく。

「爆撃音が聞こえたので、とても心配です」

深いため息をつき、しばらく沈黙した後、こう言った。

「もし1日でも『大丈夫だよ』という連絡がないと、私は心配してしまいます。一番大切なのは彼が生きて帰ってくること。一刻も早く戦争が終わってほしいです」