ウクライナ人のユリアさん(19)は、2度目となるロシアの侵攻により、ウクライナからモルドバへと避難せざるを得ず、ウクライナで兵士として戦う婚約者のウラディスラフさんと離れて暮らしている。
しかし、結婚するためにはユリアさんがウクライナに一時帰国する必要がある。ウラディスラフさんは出国することができないからだ。
結婚のため戦火のウクライナへ ウェディングドレスの花嫁と迷彩服の花婿

「今、ウクライナに戻ることは危険だから、絶対に止めたほうがいい」と周囲からは猛反対された。背中を押してくれたのは里親のリアシェンコ夫妻だった。
「あなたが自分の意思で決めたことなのだから、家族で応援しましょう」
最前線にいるウラディスラフさんに2022年11月、結婚のための5日間の休暇許可が出た。
ユリアさんはすぐにギンデシュティからバスを乗り継いで国境を越え、ウクライナのミコライウに向かった。
ウラディスラフさんと再会した際、一言挨拶した後、二人は抱き合ったまま何も話さなかったという。
「ロシアの侵攻で人生を変えられたと強い憤りを感じていましたが、彼と会った瞬間、全てが吹き飛びました。彼を抱きしめていれば、言葉はいりませんでした」

純白のウェイティングドレスに身を包んだユリアさんと迷彩服姿のウラディスラフさん。
ドレスの代金は、苦しい生活をしているリアシェンコ夫妻がせめて娘の晴れ舞台だけはとの思いでコツコツ貯めたものだった。
新郎新婦はミコライウの役所に婚姻届けを提出した。祝福してくれる参列者は誰もいない。
婚姻届けを発行した公務員の前で永遠の愛を誓い、指輪を交換した。ウクライナでは結婚指輪は左手ではなく右手の薬指にはめる。
最後に婚姻届に署名して、結婚式が終わった。
「式のプロセスを経るなかで、実感がどんどん沸いてきました。私には今、夫がいる。これから私の家族を築いていくんだ」。そう話すユリアさんは頬を赤らめていた。
家族が出席できない寂しさはあったが、それ以上に夫婦となれたことが嬉しかった。二人は戦争が終わってから、あらためて披露宴を行うことにしている。