■「おい、早く刑務所に行け」一転して加害者に向かう言葉の刃
A氏の投稿はSNSで拡散され、皮肉にもA氏本人が中傷の対象になった。実名が晒され、誰かが実家に押しかけて「おい、早く刑務所に行け」とがなり立てた。
自宅に届いた脅迫状には「血気盛んなヤツら集めて行くから覚悟しときな」と書かれていた。

A氏「恐怖しかない。自分のような加害者が生まれると、それに対して更に誹謗中傷が生まれる。(誹謗中傷で)傷つく気持ちがよく分かる。(松永さんに)申し訳ない気持ちでいっぱい。自分みたいな加害者を生まないように何か活動したい」
A氏の声は震えていた。SNSは加害者も即被害者になりうる恐ろしさがある。松永さんは「送信ボタンを押す前に、画面の向こうに心を持った人間がいる事を思って欲しかった」と話した。
■投稿者は誹謗中傷と意識せず 7割が正義感で書き込み

国際大学の山口真一准教授(ネットメディア論)は、「コンビニの従業員がアイスクリーム陳列用のケースの中に入った写真を投稿して炎上した事例」について、中傷する書き込みをした145人を対象にアンケートを行った。その結果、投稿者のほとんどが自分の書き込みを誹謗中傷だと認識しておらず、約70%が「間違っていることをしているのが許せなかった」「失望したから」と回答した。その他、4つの炎上事例の調査でも同様の結果が出たという。
彼らは「誹謗中傷」の意識はおろか、それぞれの「正義感」で書きこみをしていたのだ。A氏も自身の投稿を誹謗中傷と思っておらず、悪いことをしている認識もなかった。そんな彼らに中傷をしているということを理解してもらうのは困難が伴うだけに事態は深刻だ。
投稿者には「社会に不満がある」「協調性が低い」という傾向がみられるという。A氏の父親によると、A氏はここ数年で、立て続けに2つの会社から退職に追い込まれ、ストレスを感じていたのではないかということだった。
興味深いのが投稿者の31%が「男性」「中間管理職以上」「高収入」ということ。山口准教授は「収入や社会的地位よりも、人間関係や個人の幸福度の欠落が原因」と分析する。
■「集団極性化」によるリンチ現象
学校や職場の仲良しグループで、誰かが誰かを批判すると、反対意見は言いづらくなり、同じ意見でまとまりやすい。何千万人の意見が一目瞭然となった巨大なSNSの世界でも同様の現象が起きている。自分と似た意見ばかりに接していると、その主張はより過激化する。心理学の「集団極性化」と呼ばれる現象だ 。
脳科学の研究によると、人間は悪者を見つけ出して叩くことで快楽物質ドーパミンが分泌されるという。
心地よい悪者叩きは激しさを増し「リンチ」の様相を呈する。