フェルメールって、絵というより写真みたいでしょ。あんなふうに光の微妙な加減まで言葉で描写できたら素敵ですよね。「牛乳を注ぐ女」なんて、牛乳が流れてるようにしか見えない。目の前の一瞬を切り取って丁寧に伝えることで、きっと対象が生き生き輝くんじゃないかと思うんですよ。理想にはまだ程遠いです・・・。

■スポーツ中継がさらに楽しくなる!実況の個性が競技の魅力に
テレビ観戦する上で実況は大事な要素ですが、放送局や個人で違いは出ますか?
新タ:
TBSは特に個性豊かだと思います。TBSはラジオでの中継もあるので、実況はより即時描写を意識するように言われます。それを基本に、あとは自分の味をつけていくのですが、特に「これが正解」というものもない。自分で分析データを調べてしゃべる人もいれば、マイペースが持ち味になっている人も。実況には人柄が結構出ますね。最初は誰でも失敗したくないので、個性を出すのは勇気がいる。勝負している後輩を見ると頼もしくなります。

後輩のチャレンジで最近印象的だったものは?
新タ:
昨年のクイーンズ駅伝では、日比麻音子アナウンサーが中継地点の実況を務めました。「女性アナに担当させたい」というディレクターたちの考えがあって、本人が手を挙げたんです。女性の声が実況に向かないというのは思い込みで、そういうところにこそ思ってもいない可能性が眠っているかもしれません。そうしたチャレンジはみんなで後押ししていきたいですね。
最後に、スポーツ中継をさらに楽しむポイントを教えてください。
新タ:
実況者の視点やアプローチが変われば、同じ競技でも伝わる魅力が変わってくる。それによって興味なかった人も興味を持つ場合もあると思います。例えば、バレーボールの実況はプレーの結果だけを伝えることが多いですが、僕は部活動でプレーしているような若い人たちにも世界レベルのトレンドを伝えたいという思いから、「どうしてこの結果が生まれたのか」「何を狙ってこのストーリーを作り上げているのか」監督の戦略などを交えながら、一段深い視点と実況を心がけています。そうした実況者それぞれのアプローチの違いを聞き比べて楽しんだり、お気に入りの実況者を探したりするのも面白いのではないでしょうか。
また新しい競技が出てきた時に、新しい実況も生まれやすいと思います。2024年のパリ五輪で加わるブレイクダンスや、2026年のミラノ・コルティナ冬季五輪でのスキーモ。実況者がどんな視点でどんな楽しみ方を伝えてくれるのか、ぜひご注目を!

新タ悦男(にった・えつお)/TBSアナウンサー。1974年京都生まれ。1998年に入社以来スポーツ中継に携わり、テレビ・ラジオで夏冬合わせて5回の五輪実況を担当。21年からニューイヤー駅伝センターを担当。担当競技は、陸上から、野球、バレーボール、体操、サーフィン、ボクシング、フィギュアスケート、スノーボード、カーリング、スピードスケートなど多岐にわたる。現在ひるおびにも出演中(毎週月曜日午前)。