■実況に不向きと言われた声
キャリアを重ねる中で、悩んだり、苦労したりしたことは?

新タ:
新人時代、僕の高めの声が聴きづらいという先輩もいて、「もっと低く出せ」「どうにかならないのか」と言われたこともあります。本質的な声はどうしようもない。悩んでいた時、別の先輩から「出ないんだからしょうがない。そのままでいけば?」と言われて気持ちがふっと軽くなった。それなら自分は人と違うところで勝負すればいい、高い声が合うスポーツもきっとあるだろうと、前向きに考えられるようになりましたね。
今だから言えることですが、足りないところを無理に取り繕うよりも、その足りない部分を補えるぐらいに人と違う自分らしさを伸ばす方がいい。個性は才能だと思うから。

■フェルメールの絵のような実況
実況者としてターニングポイントになった出来事はありますか?
新タ:
2008年の北京五輪に、民放とNHKが共同制作して放送するジャパンコンソーシアムで参加しました。ご一緒した他局のアナウンサーが柔道の実況をしていて、一人の日本人選手が金メダルを取った瞬間に声を詰まらせたんです。見ると、静かに涙を流しながら実況をされていました。日頃からとても冷静に丁寧にしゃべる方だったのですごく驚きました。同時にいかに選手に寄り添って取材して来たのかが伝わって来て、僕も思わず泣いてしまって。
アナウンサーはどんな状況でも冷静に実況しなくてはいけないと思っていましたが、その姿を見て考えが変わりました。すごく人間味があって、自分もこういうアナウンサーになりたいと思いましたね。
ご自身が理想とする実況の形はありますか?
新タ:
昔から絵画を見るのが好きなんです。ただ自分で描くのは恐ろしく下手。そんな僕でも、言葉という絵筆を使えば人の頭の中に絵を描けるんじゃないかと思ったのが、アナウンサーを目指したきっかけです。だから理想としては、フェルメールの絵のような実況!