北京五輪ハーフパイプ男子決勝の実況で、平野歩夢選手が決めた神業を「人類史上最高難度」と表現し、話題となったTBS新タ悦男アナウンサー。技の名前が淀みなく繰り出されたことでも視聴者をざわつかせた。新タアナに、今だから話せる北京五輪の舞台裏や秘話、日々の努力、さらにはスポーツ番組視聴がもっと楽しくなるポイントについて聞いた。

■平野歩夢の気迫をとことん「即時描写」

ハーフパイプ男子決勝は平野歩夢選手の金メダルが有力視されていた注目の競技。その大舞台に新タアナはどんな心境で臨んだのでしょう?

新タ:
金メダルを取るかどうか以上に、「選手たちは何をやってくれるだろうか?」とワクワクしていました。平野選手がどんな滑りを見せてくれるのか。ショーン・ホワイト選手の現役最後の滑りはどんなだろう。スイスで秘密の特訓を積んだというスコッティ・ジェームズ選手は何を出して来るのか。選手たちがお互いを意識しあってどんな演技をしてくれるのか、そういうジャムセッションが純粋に楽しみでした。

選手らの実力が拮抗し、接戦が繰り広げられる中、平野選手が大技「トリプルコーク1440」を決めた。その瞬間を「人類史上最高難度のルーティーンが今、成功しました」と表現してツイッターで話題に。あのフレーズは事前に用意していたのですか?

新タ:
用意していません。ハーフパイプは1回のルーティーン(注:演技のこと)で空中技を5~6回します。平野選手は誰もやったことのないトリプルコーク1440をその一発目に入れてきたんです。最後なら着地に集中するだけですが、一発目だと次の技につなげないといけないから難度も上がる。すごい挑戦ですよ。それを間近で見て、自然にあの言葉が出ました。
スポーツはどんな競技もそうですが、こちらの想像を超えてくるのが魅力。あくまで主役は選手で、僕は目の前の出来事を遅れずにしゃべるだけ。実況の一番の基礎は「即時描写」ですから。


その平野選手の演技に対してのジャッジが予想外に低く、衝撃が走りました。あの時の心境は?

新タ:
「おい、ウソだろ!誰もできないことをやったんだぞ!」が正直な感想です。でも採点に関してアナウンサーが何か言える立場ではないので、すぐに点数の理由を分析する方向に頭を切り替えて、理由の可能性をしゃべりました。
あの状況下で、平野選手は3本目でさらに高さを出し、より丁寧な流れでルーティーンを成功させてみせました。僕の勝手な想像ですが、あの強いメンタルは彼が東京五輪のスケートボードから得た最大の収穫かもしれませんね。北京の前には尋常じゃない量の練習を重ねたと聞きましたし、自分を乗り越えたい、やってきた自分を自分自身が信じたい、という強い思いが伝わってきました。

■「心残り」が生んだトレンドワード

難しい技の名前を正確に淡々と伝え続けたことでも世間を驚かせた新タアナ。そこにはどんな準備があったのでしょう?

新タ:
スノーボードハーフパイプの実況をしたのは2014年のソチ五輪が最初で、自分の中で競技の良さを視聴者のみなさんに十分に伝えることができなかった、という心残りがあったんです。当時は全部の技を正確には見分けられなかったので。

例えば「トリプルコーク1440(フォーティーンフォーティ)」で言うと、「コーク」は縦と横が合わさった斜め回転のこと。総回転数が4回転のうちコーク軸が3回転入っているものを指します。コークが入っていれば「トリプルコーク1440」、入っていなければ横回転のみのフラットの「1440」になるのですが、選手によって軸が微妙に違い、コークが入っているようにもいないようにも見える。当時はその辺の見極めに自信が持てなくて、技の名前を言えないことがありました。

その心残りから、実況する機会はもう無いかもしれないけれど、いろんな大会を見て勉強するようになりました。X Games Aspenやワールドカップなどを、ネットで朝から見始めて、気づいたら夜になっていたことも。おかげで今回の北京はそこに意識を取られることなく、いかに視聴者の皆さんに競技の面白さを伝えられるかに集中できました。自分がたまたましゃべった言葉が競技への興味につながったのだとしたら、取り上げてくれた皆さんに感謝です!