今回、私たちは、埼玉県のある薬局が実際にはやっていない新型コロナの検査をやったと偽って、多額の補助金を得ているとの情報を得ました。取材を進めると、検査数の水増しに使われた「個人情報リスト」の存在にたどり着きました。補助金不正受給の手口を追跡しました。
コロナ 補助金9000万円不正受給か「薬局に人が並んでいるところ見たことない」

駐車場に止まった白い車。新車であれば1000万円ほどするイタリアの高級車“マセラティ”だ。この車を最近購入した人物が補助金を不正に得ているという。情報提供窓口、TBSインサイダーズに寄せられた告発。それは新型コロナの無料検査所に関するものだった。

(情報提供窓口「TBSインサイダーズ」の投稿内容)
「実際には検査していないのにも関わらず、検査申込書を従業員などに書かせて補助金をもらっていました」
その無料検査所は埼玉県富士見市にある上杉薬局 富士見店だ。

新型コロナの感染が流行してから3年あまり。この間、全国各地にはコロナの感染を検査する無料検査所が数多くできた。無料なのは税金で検査費用を補助しているからだ。内閣府によると、無料の検査所は全国に1万3000か所、去年末までに約1100億円を超える国費が投じられている。

私達は実態を明らかにするため問題の検査所を運営する薬局に向かった。埼玉県からは既に9100万円の補助金が支払われている。しかし検査所の案内はなく、一見してここで検査が行われているのかはわからない。

ーー抗原検査について取材をしている。お話をお伺いしたい。代表者はいますか?
薬局の従業員「いま、お休みを頂いている」
ーーここで無料の抗原検査は行っていましたか?
薬局の従業員「はい。代表じゃないので、私たちでは答えないようにと確認したら言われたんですけど」
“何も答えられない”従業員はそう言うと突然ブラインドを閉め、その日の営業をやめてしまった。近所の住民は一様に首をかしげる。

ーーここで無料の抗原検査をやっていたのはご存知ですか?
近所の住民「“やります”って書いてあったな」
ーーここで検査を受けたことは?
近所の住民「ないない」

ーー薬局に人が並んでいるところは見たことがある?
近所の住民「ないない、全然、誰も」


問題の薬局は去年1月に埼玉県から「無料検査所」の登録を受けている。関係者によると、薬局が県に申請した抗原検査の件数は去年2月は約120件だったが、その後、急増し8月には6100件と50倍に達した。今年1月までに合わせて4万件余りの検査で総額1億4100万円を超える補助金を申請していて、このうち既に9100万円が支払われている。