総裁選以来言葉を交わしていない岸田総理と古賀氏

古賀誠元自民党幹事長(2023年3月9日収録「国会トークフロントライン」にて)
「日本は外交上ですね、そうした(台湾侵攻の)懸念があるからこそ命がけで中国に対して絶対に武力による解放は許せませんよと。何としてもね、話し合いで解決すべきなんです。そこに岸田外交っていうのはね、もう全てをかけるぐらいの命がけの私は政治をやっていただきたい」

3月9日。テレビ収録で、日中外交についてこう注文をつけたのは、古賀誠自民党元幹事長。現在の岸田派である、宏池会の前の派閥会長で、岸田総理の“政治の師”とも言われる人物だ。

岸田総理と古賀氏は1年以上会話をしていない。本人たちによると、最後に話したのは岸田総理が総裁選出馬表明した2021年8月26日の前日。岸田総理は電話をかけて総裁選出馬を古賀氏に伝えたという。そこからは電話も含めて一切連絡を取っていない。
2月21日、宏池会の前参院議員のパーティーでは顔を合わせたものの、言葉を交わすことはなかったという。
官邸幹部は時々古賀氏がいる砂防会館の事務所に会いに行くそうなので、岸田総理に古賀氏の意向がまったく伝わっていないことはないかもしれないが、それでも異常なほど疎遠だ。

なぜなのか。

一般的に言われるのは、古賀氏と折り合いの悪い麻生副総裁に岸田総理が配慮しているから、というもの。それは大きな要因ではあるのだが、ここではあえて違う点を指摘してみたい。宏池会という派閥の理念そのものへの考え方の違い、である。

古賀氏「楕円の哲学」「理想を実現するのが政治」

岸田総理が産まれた1957(昭和32)年、池田勇人元総理が設立したのが宏池会。名前の由来は後漢の学者・馬融の「高光の榭(うてな)に休息し、以て宏池に臨む」という一文から。以来、分裂や合流はあったものの、どの派閥よりも長続きして今に至る。「保守本流」を標榜する政策集団である。

古賀誠元自民党幹事長(2020年10月28日の講演にて)
「憲法9条は多くの人たちの血と汗と涙の結果として、国民の責任として、決意として9条を大切に今まで守ってきたわけであります。それが理想であれば 理想を実現するのが政治でなければならないということを我々政治家はしっかりと国民に恐れることなく言い続けていかねばならない」

太平洋戦争中、フィリピン・レイテ島で父親を亡くした古賀氏は徹底的に戦争を憎み、「憲法9条は世界遺産」と公言するなど、自民党内でもリベラル色が強い政治家とされてきた。
宏池会の理念は池田勇人元総理も掲げていた「軽武装・経済重視」であるとし、安全保障についても日米安保と憲法の2つが引っ張り合いながら、ひとつの円にはならないという「楕円の哲学」を大事にする。

また、「政治的パフォーマンスではなく、国民に言うべきことは言い、真摯 な言葉で理解を求めていく」ことが「保守本流」の政治だと訴えてきた。