■「どういうわけか昨日からウクライナ語のチャンネルが1つだけ見られるようになりました」
ヘルソンではロシア軍侵攻後、ウクライナ国内の放送がストップし、ロシア国内の放送しか見られなくなっていた。それが・・・
ヘルソン女性市民
「これまでロシア語のチャンネルしか映りませんでしたが、どういうわけか昨日からウクライナ語のチャンネルが1つだけ見られるようになりました」
視聴可能になったのは、地元ヘルソンの独立系テレビ局BTBプラスで、戦争の状況やウクライナ軍とロシア軍のヘリの見分け方など、ロシア寄りではない情報も提供している。
これはヘルソンに侵攻したロシア軍がメディアを完全に掌握出来てはいないことを意味する。
今回、『ロシア化』が思うように進まないのには、ある大きな存在があると角元大使は言う・・・。
■ウクライナのオリガルヒを敵に回したのが誤算だ
ロシア側が制圧したとしているマリウポリでウクライナ側の拠点となっている製鉄所がある。
連日ニュース映像でも映し出される攻撃にさらされた東京ドーム235個分という広大な製鉄所。この所有者こそウクライナナンバー1のオリガルヒ、リトナ・アフメトフ氏。石炭・鉄鋼・メディア・電力を掌握しサッカーチームを所有し、学校、教会、病院を運営する大富豪だ。
ウクライナの地方都市は、アフメトフ氏をはじめとしたオリガルヒが君臨し、政府よりも権力、財力を有し、何より市民から尊敬され支持されている。
角茂樹 元駐ウクライナ大使
「(ロシア軍が)侵攻した東部で(アフメトフ氏所有の)石炭の施設など接収したことがある。他の人を持ってきて経営しようとしたんですが従業員がついていかない。働いている人たちにとってアフメトフさんが、学校を作り病院を作り、年金まで払ってくれる。ウクライナ政府の年金ものすごく少ないですから。この人についていくことで成り立ってますから。(中略)子供のころから面倒を見てもらっているからよそ者が来てやると言ったって『はいそうですか』とはならない。形の上でロシアが住民投票やっても巧くはいかないと私は思う」
プーチン氏は、ウクライナ・オリガルヒを親ロ派にするという戦略は考えなかったのだろうか。
マリウポリの製鉄所に代表されるようにロシア軍は、ウクライナの様々な施設を無差別に攻撃してしまった。この戦争でウクライナ・オリガルヒはかなりの資産を失っている。
パトリック・ハーラン氏
「ワシントンポストが報じてますけど、フォーブス誌が『世界の億万長者ランキング』発表してます。その中にウクライナのオリガルヒの資産も載ってます。これが戦争前と現在で激減してます。アフメトフさんも載ってますが、資産が3分の1くらいに減ってるんですよ。だからオリガルヒはこぞって戦争反対なんです」
今回は一丸となって反ロシアのオリガルヒもクリミア併合の際は対応が様々だったと角元大使は言う。
角茂樹 元駐ウクライナ大使
「2014年の時にはウクライナは貿易の25%をロシアとしていたんです。オリガルヒの中にもロシアと交易していた人がたくさんいたんです。だからロシアの侵攻への対応も色々な意見があったわけです。でも今、ウクライナのロシアとの貿易はわずか7%ですからね。ロシアと貿易してきたオリガルヒも取引相手を西側に変えてきていたんですね。従ってもうロシアを頼る必要がないんです」
プーチン氏はウクライナ・オリガルヒの存在を甘く見過ぎたのか、はたまたもとより眼中になかったのか・・・。『ロシア化』の道は遠そうだ。
(BS-TBS 『報道1930』 4月29日放送より)