「密告は愛国主義者の義務」

1枚の画像がある。自室の椅子の座る若い女性。素足の足首に黒い輪っか状の装置が付けられている。居場所を特定するためのものだった。彼女はロシア北西部に住む20歳の大学生、オレシャさん。SNSに反戦の投稿をして去年末から自宅で軟禁状態になっている。いまはインターネットもモバイル通信も禁じられているためインタビューもできない。母親が取材に応じてくれた。
軟禁中のオレシャさんの母 ナタリヤ・クリブツォワさん
「オレシャは“人が殺されるのは嫌だ”と言う意見を表明しただけです。軟禁されることを受け入れたかもしれませんが、納得しているわけではありません」

オレシャさんは去年、「ウクライナ人は喜んでいるか」というコメントを添えてクリミア橋の爆破映像をSNSにアップしたことで、“テロを正当化した”として最大7年の懲役刑とされた。さらにドンバス地方の併合を祝うイベントに強制的に参加させられた学生の写真をアップし、「最低」と書き込んだ。この一言がロシア軍への侮辱とされ、最大3年の刑を言い渡された。

軟禁中のオレシャさんの母 ナタリヤ・クリブツォワさん
「不条理ででっち上げです。画像と数文字程度の投稿をした女の子を裁くなんて…。(中略)ロシアでは言論の自由が法律で定められていますが、毎日のように新たな法律が出てきて、それに適応する時間がないのです。昨日までやってよかったことが、今日からは禁止され…。明後日はどうなるかわからない。大変です」

当局が目を光らせているだけではない。オレシャさんのSNSを見た同級生が密告したのが事の始まりだったともいわれている。彼女と同じ大学に通っていた20歳の学生は、“大学が変わってしまった”と話す。

オレシャさんの支援者 イリヤ・レシュコフさん
「オレシャさんの取調べ資料の中に“同級生の密告”が挙げられています。彼らが非常に過激な考え方の人たち。ウクライナの戦争を支持している人たちにとって密告は愛国主義者の義務なんです。密告グループがあります。おそらく小規模のローカルなもので10~15人がいるでしょう。SNSやネットで見た情報を集めて密告するのです。(中略)私がいた頃の大学には自由がありました。在学中に色々な人と話しましたが中立的な立場を取る人がほとんどでした。心の中では反対、または賛成なのかもしれませんが、なるべくそういう議論をしないようにしていました。しかし、今は雰囲気がかなり緊迫しています。密告する学生がいれば、密告する教師もいるのです」

ウクライナ侵攻後、反戦運動を行っていたイリヤさんは、去年6月大学を除籍になった。現在はジョージアに住み、オレシャさんの支援活動をしているという。

















