「戦争で起きていることに耳を塞ぎ、目を閉じる」
「多くの人が戦争の出来事に無関心を装っています。プライベートなグループである時、友人からこう言われました。『オレグ、なぜいつも戦争について話しているのですか、私たちはこの戦争について知らないとでも思っているのですか?私たちが戦争を支持しているとでも思っているのですか?戦争に恐怖と血があることも理解しています。しかし、何も変えることはできません。毎日、戦争で実際に起きていることを考えたり話したりすると、気がどうにかなってしまいそうで、精神的にも身体的にもとても健康ではいられません。私には家族もいて責任があります。 だから、戦争で起こるすべてのことに耳を塞ぎ、目を閉じたほうがよいのではないですか』と。これがいわゆる無関心が社会に生じる理由です」
「人々が戦争に対する否定的な態度を自分の中に隠し、公の場で議論がないという事実は、政権が目指していたことであり、それを果たした政権側の勝利といえます。戦争が始まる前の数年間、大きな抗議活動がいくつかありましたが、当局はその度、多くの人を拘束し、抑圧し、刑事事件を起こしました。社会はこの数年、ひどく脅迫されてきたのです。そして戦争が始まりました。強調しておきたいのは、戦争が始まってから最初の数週間、特に最初の数日間、大きな反戦デモが行われたことです。モスクワだけでなく、サンクトペテルブルクやロシア東部、中部など多くの都市で数千人、数万人が拘束されました。政権は、いわゆる『軍に関する虚偽情報を流布』すれば懲役10年という残酷な法律をすぐに採択しました。つまり、この戦争について本当のことを話せば、『これは偽物だ』と言われ、10 年間刑務所に入れられるということです。 社会はこの抗議の波を打ちのめしたのです。当初、科学者、作家、芸術家たちが戦争反対の意思を示し、多くの署名をしました。『メモリアル』の事務所でも、連日抗議集会が開かれ、 アーティストがパフォーマンスを行い、絶え間なく歌を歌い、詩を朗読し、戦争に反対しました。 しかし、それらもすべて抑圧されました。戦争に反対する声明に署名していたアーティストたちは、今はただ国を去るだけです。多くの人が去りました。エリートが去っていきました。政権を支える疑似エリートではなく、本物のロシアのエリートです。人々の抗議の声は抑え込まれたのです。政権はそれを達成しました」
「来年の大統領選ですか?ロシアには政治はありません。すべてを決定する一人の独裁者がいて、この独裁者の周りで騒いでいるのは、彼の子分と操り人形です。プリゴジン氏(※ロシアの民間軍事会社「ワグネル」創設者)とカディロフ氏(※プーチン氏に忠誠を誓うとされるチェチェン首長)が軍の将軍を非難し、将軍が解任されたというようなことが報じられ続けています。ロシアではそのことに多くの議論があり報じられているのです。これが政治ですか? これは政治ではありません。大統領選についてですが、真の意味での選挙はありません。選挙を実施しないか、実施したとしてもただ過ぎていくだけです。どうしてこれを選挙と呼ぶことができますか?実質的な選挙運動も野党もなく、代替となる真面目な候補者も立候補できず、正当な選挙監視も行われない。それで選挙といえるのでしょうか」
「抵抗はあります。もちろん大きくはなく、ごく小さいものです。人々は壁に反戦の落書きをし、ビラを配り、インターネットで戦争に反対する書き込みをしています。抵抗がないというのは間違いです。近い将来、大きな抵抗がありえるでしょうか?様々な状況次第です。ウクライナの前線がどうなるのか、新たな動員があるのかどうか。死者の人数にも依ります。そして、プーチン氏周辺の”疑似エリート”の気分にも依ります。私たちが知る限り、この戦争に満足していない”疑似エリート”がたくさんいます。しかし、彼らはまだ自分の立場を示すことはできません。 それはあまりにも危険です。彼らは私たちと同じ不自由な人たちなのです。それでもプーチン氏だって永遠ではありません。いつかいなくなります」
