「歴史は侵攻を正当化するための道具にすぎない」
「プーチン氏の主張は紛らわしく変遷し、間違っています。戦争の真の目的は、プーチン氏によって侵攻前から明確に定義されていました。『世界を分け合いましょう』『自分たちの影響圏を作りましょう』。プーチンの発想は 20世紀のようです。過去を取り戻したいのです。『ソ連の偉大さを今日のロシアに取り戻す』。常に未来ではなく過去に目を向けています。アメリカ、ヨーロッパ、ロシア、中国で世界を分け合うというのが彼の主張です。そこで旧ソ連はロシアの勢力圏となります。つまり、彼は独立国家としてのウクライナを取り除きたいと本当に考えています。ウクライナを衛星国家にしたいのでしょう。かつて 東ヨーロッパの国々がソビエト連邦の衛星国だったように」
「ウクライナ侵攻に関するプーチン氏の主張は、第一段階は『我々はナチズムと戦っている』というものでした。ばかげた、真実とはほど遠い言葉ですが、私たちの国民の一部に影響を与えました。2014年から何年もの間、ロシアのプロパガンダが国営テレビから流れ続け、驚いたことに、それは多くの人に効果がありました。ロシア人にとって、”ナチス”というのは絶対悪となる非常に深い意味を持つ言葉です。そして今、しきりに主張しているのが、『我々はNATOと戦争をしている』というものです。これは反西側、反NATOのプロパガンダです。 『NATOは我々を侵害し、我々に危害を加えようとしている。 我々は自分たちのために、ロシアとウクライナの未来のために、NATOと戦っています』。これもまた国民の一部に影響を与えます。全体主義の社会には一定の効果があるのです」
「『メモリアル』はなぜ解散させられたのか(※2021年12月にロシア最高裁が解散を命じる判決)。なぜ『メモリアル』は政権に歓迎されなかったのか。私たち『メモリアル』の思想は、歴史と人権を同時に扱うというものです。過去と現在の人権侵害の間には直接的なつながりがあると信じています。ここには間違いなく継続性があります。そして、私たちは事実に基づいて行動するよう心掛け、歴史について話し、議論しようとしています。かつて私たちはあるプログラムを行っていました。現在は禁止されてしまいましたが、ロシアのさまざまな地域の学校の生徒たちを対象としたものでした。生徒が歴史的なトピックについてエッセイを書くのですが、私たちは彼らに何も指示しません。例えば『20世紀のロシア』について。何か資料を見つけて、それをもとに家族について書くことができます。自分たちの住む町や通りについてだって書けます。生徒たちの作品は素晴らしかったです。 私たちは彼らに考えるように教えました。事実を批判的に考え直すように教えました。プーチン政権ではこれは到底受け入れられません。プーチン氏の観点では、歴史は今日の事態を正当化するための道具にすぎないのです。彼はウクライナの歴史について論文を書きました。それは偏り、事実も間違ったものでした。今、彼には完全に不適切な歴史的な世界の概念ができています。彼にとっては、この概念こそが彼の政治の根拠です。彼にとって歴史はもはや科学ではありません。 ツールにすぎないのです。 政権にとって、別の事実を語る『メモリアル』は絶対に受け入れられないのです」
(取材:モスクワ支局長 大野慎二郎)