■感染自体よりも恐るべき“封鎖” 

記者は家族5人で上海市の東エリアに住んでいる。朝起きるとすぐに中国の通信アプリ「微信(WECHAT)」を開く。マンション管理会社からPCR検査等の案内が来ていないか、そして住民同士のグループチャットに食料販売の案内が来ていないか、チェックするのが日課となっている。昼間、記者は原稿を書いたり調べ物をしたりしているが、妻は一日中慣れない中国語と格闘しながら食料情報を求め、スマホとにらめっこしている。上海に赴任し、こんな食料難を体験するのは初めて。原因は、新型コロナ再拡大に伴う封鎖生活だ。

上海で、新型コロナの市中感染者が目立つようになったのが3月。感染者や濃厚接触者らが立ち寄った場所は「ゼロコロナ政策」に従い、次々と封鎖されていった。もし外出先で突如封鎖措置に遭い、身動きが取れなくなったらどうするのか。もし子どもだけ封鎖対象になったらどうするのか。感染自体よりも、問答無用の封鎖が相次ぐことに危機感を覚え始めていた。

3月19日、ついに自宅マンションが封鎖された。この日発表された市中感染者数は374人。当時、上海で過去最多の感染者数だった。しかし、自宅マンションで感染者が確認されたわけではない。市当局は、感染者がいなくても防疫上重要と判断した区域をあらかじめ48時間封鎖してPCR検査を行うことにしたのだった。この封鎖は一旦は予定通り解除された。だが翌23日から再び封鎖。今度は説明がないまま、期限が延長されていった。

3月27日、上海の感染者数が中国全土で最多となったことが明らかにされた。その夜、市当局は国営メディアを通じ、28日から私の住む東エリアで大規模な外出制限を実施すると発表した。すでに封鎖下に置かれていた記者一家は、成す術がなかった。そのまま“ロックダウン生活”に突入したのだ。

■ハイペースのPCR検査、乗じて抜け出れば拘束も


“ロックダウン”は当初4日間とされていた。しかし、報道されているように今も続いていて、PCR検査や荷物の受け取り以外では部屋から出られなくなった。記者が取材を理由に外に出ることもできない。共産党系メディアは例外のようだが。


記者宅マンション敷地内でのPCR検査


PCR検査は2、3日に一度というハイペースで、いずれもマンション敷地内で行われている。狭いエレベータ内で他の住民と一緒にならないよう非常階段を使って移動するなど注意しながら外に出る。しかし検査の列ができていて、結局“密”になっていることが多い。検査は喉だけで行う。入国時に空港で行われたのに比べれば痛みは格段に少なく、当時の検査で泣いていた7歳の娘が「痛くなかった」と言うたびに、ほっとする。

ちなみに検査に乗じ、そのまま外出でもしようものなら日本と異なり身柄拘束されることになる。待っているのは行政処罰による罰金か、場合によっては起訴されて懲役刑だ。封鎖は辛いが、抜け出したいと思ったことは一度も無い。

■「先に食料なんとかしないと死ぬよ」妻のメッセージ

一番の問題は買い物だ。中国ではスマホで注文すれば商品が届く「ネットスーパー」が主流で、これまでも頻繁に利用していた。しかし“ロックダウン”が始まると、ほぼ機能しなくなってしまった。需要の急増や配達員不足が原因だ。新たに利用可能な「ネットスーパー」を探し出しては注文を繰り返し、何とかやっていけそうだと当初は思っていた。しかし大きな勘違いだった。3月31日。マンション別室で仕事をしていたところ、妻から携帯にメッセージが届いた。

「先に食料なんとかしないと死ぬよ」

ただならぬ文言。慌てて仕事の手を止めて居間に戻った。記者は注文しただけで安心しきっていたが、物流の混乱で品物が全く届いていなかったのだ。我が家には食べ盛りの子どもが3人(長男15歳、長女13歳、次女7歳)。にもかかわらず肉類は底をつくなど、冷蔵庫の中はスカスカだった。中国最大の経済都市である上海で、まさかこんな食料難に陥るとは。藁にもすがる思いで中国人の知人に相談すると、店と交渉して豚肉を購入してくれた。助かった。ひとまず危機は乗り切った形となったが、自分の責任感の無さには反省するしかなかった。

当初、解除が予定されていた4月1日、記者の住む東エリアのほとんどの区域で封鎖延長が決まった。同時に西エリアでの封鎖も始まり、食料の確保はますます困難となった。そこで始まったのが「団体購入」。マンションの住民らが小売店と交渉し、一定数の購入が見込めれば販売成立となる。冒頭記したように「微信(WECHAT)」でグループチャットを作り、そこに告知される販売情報をみて購入するのだが、いつどこの店が何を販売するか、情報更新は不定期のため、妻は一日中スマホから目を離せないでいる。

悩ましいのは価格だ。良心的な店でも卵(10個)約550円、牛乳(950ml)約600円。そこに円安が追い打ちをかける。日本なら4000円程度で揃えられるはずの食材セットは軽く1万円を超えてしまう。それでも食料が手に入るだけありがたいのだが、最近は「団体購入」にも消極的な動きがみられる。市当局は感染拡大の理由として「物から人への感染が疑われる」と繰り返し主張するため、団体購入の中止が求められる地域が出始めているのだ。

では、どうやって食料を確保しろと言うのか?感染を防ぐためなら食べることも我慢しなければいけないのか?「健康のためなら死んでもいい!」綾小路きみまろ氏の漫談の一節が頭に浮かんだ。